川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

2021-01-01から1年間の記事一覧

ぬるっとした感触

風だけ残った。夕方に雨はやんで、退勤の人らがぞろぞろ外に出始めた。皆傘を畳んでいるが、強風で帽子を吹き飛ばされた人を見た。 Hさんはいちにち蟄居。口内炎をふたつもつくっているから、寝てればと出がけに言ったが、ほんとうに3時間くらい眠ったらしい…

腹上の本

『回想のブライズヘッド』というおもしろい小説を読んだ後につづけて『緑の家』を読んだのだが、何頁もいかぬうちに放擲した。全然のれなくて、これを読むのは今じゃないなと思った。最初、文字の密度の濃い描写が数十頁つづく。密林の中に修道女を乗せたボ…

北や南、それから記憶の

村上春樹の小説「中国行きのスロウ・ボート」の書き出しで、自分が最初に出会った中国人は誰だったかみたいなのありませんでしたっけ。僕は村上春樹好きでも嫌いでもないから、昔読んだっきりの記憶ですけど。その顰に倣うとすれば、僕が初めて出会った中国…

けうとい夕刻の道を

今日は躰がだるかったな。外回りも無く事務所でデスクワークだったから2千歩にも達していない。一度駄目になった話が思わぬかたちで復活したのはよかった。禍福は糾える縄の如し。帰宅して飯の前に体重計にのったら79kgに戻っていたが筋肉で重くなっているの…

碧いスーツケース

朝、スーツケースのナンバーロックの番号を忘れたとHさんが騒いでいる。この碧いスーツケースはこのあいだ買ったばかりで、三桁の番号はたしかふたりで決めたのだったが、わたしもまるで思い出せない。彼女はわたしを責め立てる。あなたの記憶力は落ちたわね…

アッシュグレーの休日

散髪に行く。外はからっと晴れて気持ちがいい。いつもの美容院。客はそこそこ入っているが、不思議にどこかがらんとした印象だ。ちょっと考えて、今日は入口に座って待つ客がいないからかもしれない。それと、下町の店だから客のなかにお喋り好きが2人か8人…

冒頭

今日気がついた。近所の商店街━といって御多分に洩れずシャッター閉まりぱなしの店ばかりだが━にある書店が今月15日で閉店していた。老夫婦でやっていた。シャッターに手書きで〈閉店しました〉とあり、両サイドのタイル壁に印刷されたわりかし長文の紙面が…

食卓

帰宅したらモモさんがいた。 僕が2階で着替えているあいだ、食卓に手際よく料理の器が並ぶ音、Hさんと彼女が上海語で雑談する声が聞こえてくる。お互い早口で声が大きい。下りていくとコップに氷を入れ、自家製梅酒を注ぐのが僕の役目。お喋りのやまないふた…

紹興のひと

連休には過去にもこうゆうことが2回か8回あった気がする。それがいつどこでとゆうところまでは憶えていないが。特に天候の悪い休日が過ぎ、晴れ渡った翌日など雨後の筍のように人出が凄く、それを捌く方も大変は大変だ。今日みたいに。 洗濯物を干していた時…

サスペンダースカート

台風本体が徐々に関東に近づいてきて、外はドシャ降りだ。以前からこの日ちょろっと会う約束をしていたシーシー氏に「飛行機飛ぶの?」とラインで送る。ほどなくして「どうなんですかねえ」と返ってきた。「じゃあ、とりあえず羽田行くわ」と送る。彼と会う…

ありふれた日常に関する覚え書

こちら、雨はまだ降っていない。風も吹いていない。テレビでは九州の福津市付近に上陸したと言っている。今夜半からか。天津甘栗を買ってきてくれろとHさん。あれ美味しいでしょ。大きめのパックに小分けされたパックがいくつか入っている、河北省産のやつ。…

ラブラドールの貌

台風か温帯低気圧が接近しているから土手を吹く川風は強めだった。プロムナードまで下りていくとさらに強く、お帽子を飛ばされぬよう後頭部のバンドをきつく締める。マスクをとってもこの場所なら構わない。Hさんは北関東の道の駅で買ってあげた蝙蝠Tシャツ…

锅包肉をぶら下げて

Mは勤め先の病院を休んでいるという。そのあいだほぼ臥せっていて体重が4kg減った。ただでさえ瘦せ型なのにそこからの4kgはおれの4kgとはわけが違う。化粧もほとんどしていないが、顔の皮膚は青白く、目がいつも以上に大きく見える。病み上がりそのものとい…

壮年は長編を読む。

ふと点けたテレビでビル・エヴァンスの特集をやっていた。今でもたまに夜聴いたりする。仕事から帰って食事し、ウォーキング、風呂に入って、そこからがちゃがちゃした音楽や歌詞の意味が否応なく耳に入ってくる曲は聴く気にならない時もある。ビル・エヴァ…

ちゃんと苦く

Hさんは6日の午前中にモデルナの2回目を打ったが、その晩も翌日も強い副反応はあらわれなかった。体温も最高で36.8度まで上がっただけで、打った腕が重いのと少し頭痛がするという程度。8日にはぴんぴんして自転車で買い物に行った。ただ、その晩のウォーキ…

グィフ・イートイン

毎日スムースに排便できること、自転車に乗れること。痔核根治術を受けた後ではこれらが当たり前じゃないのだと常に肛門に感謝しています。ひとは誰しも躰のどこかを故障して、その状態が深刻であればあるほど、何も異常のなかった時のありがたみを知るもの…

曲者のさむけ

ついたちの夜から注射した部位が腫れてきて、いよいよかなと思ったら左腕だけじゃなく右腕も、それらだけじゃなく背中、上半身全体が筋肉痛になった。その時点で体温を測ると36.9度で、平熱よりは高いが、まだ発熱というほどじゃない。しかし、さむけがきた…

淋しい九月

先月4日に来た時は真夏の照り返し。今日は白い空から時折小雨がぱらつく。モデルナに関しては連日異物混入や、2回目接種した30代基礎疾患ない者の原因不明死が喧伝され、なんだか不穏な中での接種となった。時間通り会場に着くと、わたしの接種を担当した人…

青と白と緑

この休日はHさんとその朋友のモモさん主導でどこかへドライブすることはあらかじめ決まっていたのだが、どこへというのは前夜にあなた決めなさいと言われた。わたしたちは外国人で詳しくないのだから。鍵の一件でモモさんには面倒をかけたから、彼女の行きた…

高速高架下音頭

夕飯のあと、ウレタン敷きのジョギングコースを歩く。今夜は川向こうの高速高架下に提灯の連なりが見え、そこから音楽が流れてくる。振り向くと、Hさんが立ち止まって向こうに目を凝らしている。興味あるのと訊くと、あるよとそのまま踵を返して橋を渡りそう…

川端康成のこの小説は初めて読むけれど、相変わらず気色悪いものを書いてらっしゃる。気色悪いし、かなり端折るのだが、文章の美しさで幻惑されるから困ったものだ。いつも。こうした気色悪い欲望の虜になるのも人間ということか。今168頁まで。 神戸の祖母…

誘いに乗る

最近Hさんがつくる羊排汤がうまい。骨つき羊肉スープとでも呼ぶのか。ある夕、汗だくになって帰宅し、食卓に置いてあったこれを啜った時はちょっと感動した。暑熱に疲労した躰につるつるとスープが浸透する。勿論、肉にもかぶりついた。見た目ほど脂っぽくな…

長雨で甲子園が連日試合中止になる

長雨で甲子園が連日試合中止になる前。 中国の文化・習俗にあかるい人なら知っている〈戴绿帽子〉。緑色の帽子を被る。高校野球を点けていたら専大松戸のユニフォームの帽子が緑だったから、Hさんに再確認で「この帽子はどうですか?」と画面を指差すと、目を…

まどう不惑

『八月の濡れた砂』(1971・藤田敏八監督)を昨晩見返したが、今さら特に言いたいこともないです。湘南地域が舞台でだいたい海が映っているけれど、ピーカンばかりでもない。テレサ野田が裸で海に入る場面は早朝だが薄曇りみたいな天気で、裂かれた衣服のか…

歳月

本日午後、事務所の二階で中文課本の贈呈式がありました。左の彼はこれまで何度かJとして登場しているのですが、わたしを中文のみならず大きく中国文化へと誘った当人です。あれからもう10年になんなんとする歳月が流れました。持ち前の諧謔精神を中文を操っ…

アサオ

あれだけ買い溜めしたZパッドももう残り少ないですし、ナプキンはすでになくなりました。自分でナプキン買うのはなかなか至難の業ですよ。ネットで購入するのもなんだかなあと思うし。ドラッグストアで他のいろんなモノに混ぜて買うのはありかもしれないけれ…

28日後

モデルナの1回目を上野精養軒で打ってきた。打ったあと15分間は経過観察のため会場に留め置かれるが、見渡すと若い人ばかりでわたしが上から2番目くらいだった。ただ、並べられた椅子はずいぶん余っている。時間帯予約だからこんなものかな。場所柄、会場に…

薄毛、ままにせよ

オリンピックの野球日米戦が白熱しているのを、美酢(ミチョ)のカラマンシーを水で割って飲みながら観ていた。Hさんが来て、「日本は棒球(バンチュゥ)ほんと多いね」と言いながらわたしの後ろに回って首や肩を揉み始めた。ありがとう。これがなかなか力強…

いいいろのみどり

にちようび、かいせい。にゅういんしているあいだずっとろくじまえにおきていたのでいえでもそのしゅうかんでめがさめてしまう。ぼくがもそもそしていたりおしっこにいったりするからHさんもおこすことになる。かのじょはよるのいつかのだんかいでべっどとさ…

バーティカルの病

尾籠な話ばかりつづけているが、人間の躰のことですから。躰のない人間は幽霊だもの。強力ポステリザン軟膏を肛門に塗布していると何かが指に触れた。見ると、からげた吸収糸の一部だ。ああ、溶け残ったものかなと思った。記念に洗って机の抽斗にしまった。…