この休日はHさんとその朋友のモモさん主導でどこかへドライブすることはあらかじめ決まっていたのだが、どこへというのは前夜にあなた決めなさいと言われた。わたしたちは外国人で詳しくないのだから。鍵の一件でモモさんには面倒をかけたから、彼女の行きたいところは、とバナナシェイクを飲みながらHさんに訊くと、「你看着办吧(あなた適当に見繕ってよ)」と顔をしかめ顎をしゃくられました。
錦糸町でモモさんを拾って、高速に乗る。雲が多いが、まあ快晴の部類。後部座席にふたりは乗っているが、手が伸びてきて话梅(干し梅)をくれた。モモさんが上海から持ち帰ったものだ。口の中で転がしながらドライビング。道の駅 水の郷 さわらで野菜や果物を買う。
そこから利根水郷ラインを延々東進して銚子へ。すでに午後1時を回っていたので海鮮の昼飯を食う。車中、モモさんがずっと日本人の夫の悪口を言っていたが、ユーモラスなところがあり、嫌な感じはわたしはしなかったが、Hさんは多少うんざりしたようだ。後ろから意見を求められるので、「話を聞いていると、なかなか性格のむつかしい人みたいですね」と言ってみる。「むつかしいよ! だから友だちひとりもいないよ。公園釣り行くだけ。そこの人もただの知り合いだよ」。
銚子に着いた当初、太陽は雲に隠れ、気持ちのよい海風が吹き抜け、少しも暑くなかった。錆の目立つ渡り廊下を歩き、レストランへ。Hさんの好物メヒカリの唐揚げにモモさんは箸をつけなかった。ふたりのお喋りは普通話と呉語方言と日本語が混じっている。彼女たちは九段下のバーゲンセール会場で知り合った。モモさん曰く、Hさんが上海周辺の南方人であることはその発話ですぐにわかった。
さんにんして同じ海鮮丼。店内は結構客が入っており、わたしたちは奥の広いコーナー席に陣取ったが、左隣りの席には頭に黒い頭巾を被った鷲鼻の父親とその妻、娘ふたりが座っていて、娘もそれぞれ鼻梁が高かった。家族らしい笑いが起こっているので微笑ましい。わたしからみて前方の席には白いポロシャツの日本男性とフィリピン女性ふたりが座っていた。女性のうちひとりは池田エライザみたいな意志と憂いのまなざしをしており、やや興味をそそられたが、マスクをはずすと思いのほか細くてあどけない少女だった。ガラス窓から太陽が射してきた。
ジオっちょも帽子に灯台が描かれているが、
そもそもこのTシャツに首を通したことから犬吠埼を目指そうという気が起こった。モモさんに微信で海边でもいいですかと確認したのは今朝の話だ。
陸の終わりの青と白と緑。〈まだ夏が終わらない 燈台へ行く道〉(西脇順三郎)。陶然とする。
君ヶ浜しおさい公園でふたりは波打ち際でしばらく過ごしていた。わたしはひとりコンクリートの階段に仰臥し、目を瞑った。〈響くサラウンドの波〉というのが真心ブラザーズの「サマーヌード」の詞にあるが、まさに取り囲まれている感じがする。海風は最高に気持ちよく躰を撫でていく。こうゆう時、身過ぎ世過ぎが馬鹿らしくなるのだよな。
渋滞なく、午後5時半錦糸町到着。モモさんを見送ったあと、車中に话梅が置かれたままになっていた。