川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

誘いに乗る

f:id:guangtailang:20210820154027j:image最近Hさんがつくる羊排汤がうまい。骨つき羊肉スープとでも呼ぶのか。ある夕、汗だくになって帰宅し、食卓に置いてあったこれを啜った時はちょっと感動した。暑熱に疲労した躰につるつるとスープが浸透する。勿論、肉にもかぶりついた。見た目ほど脂っぽくない。2日目になると味道が染み込んでさらに滋味に富む。

Mを2度千里香に連れていって、爾来彼女は羊肉のファンになったとわたしは思っている。そう本人も言っていたような。後日、友人とサイゼリヤに行った際、すかさずアロスティチーニを注文し、それまでの傾向から不思議がられたという話を聞いた。千里香には敵わないとも。2度あることは8度あるから、あと6回彼女と行かなければならぬ。

f:id:guangtailang:20210822185511j:image土曜日午前。『ドライブ・マイ・カー』(2021・濱口竜介監督)を観に行く。179分。久方ぶりの劇場鑑賞。西島秀俊はいい役者だなとあらためて思う。3時間ずっと見ていられるもの。彼が演じる家福悠介の感情と劇中劇の『ワーニャ伯父さん』のテキストがシンクロしたりして、その他も緻密に練り上げられた完成度の高い映画なのだと思うが、ちょっとユーモアが足りないのだよな。たとえば、取り違えとか場違いとか。三浦透子の渡利みさきでそうゆうのできた気がする。彼女は魅力的で─ファッションも澀好みだ─、クルマの運転はめちゃくちゃスムースだけれど、人格はもうちょっとへんてこでもよかった。あと、自分がだらしないからか、個人的に、うわ、隙が無いなーとも感じてしまった。テキストを非常に生真面目に扱っているから、意味のない(ような)台詞とかダメなのかしらね。ちなみに、家福音はさして魅力的と思えなかったし、テープの声がいいとも思わんかった。紆余曲折あったようだが、広島ロケは素晴らしい。

f:id:guangtailang:20210822185526j:image日曜日午前。両親、Hさん、柴犬と千葉の大多喜へ。ふたりはファイザーを2回打ち込んでしばらく経っている。わたしたちはモデルナを1回。そうゆう状態で県境を跨いだ。現在の心境として、両親の誘いには極力乗ろうと思っている。何度目かのハーブ園で昼食。犬連れOKのところだが、今日は大型犬がやけに多い。中の1匹のラブラドールが好戦的に、通り過ぎるあらゆる他の犬に吠えまくっている。Hさんが「燦ちゃん、静かでキレイですねー」と背中を撫ぜると、母親が「でも夏の柴犬はダメなのよね。毛がバサバサで、貧相に見える」と変な返しをした。

f:id:guangtailang:20210822185545j:imageひとりで園内を散歩していると陽が射し始める。帽子を脱いで額の汗を拭う。年齢を重ねるごとに汗っかきになっている。木製ベンチに座り、目を瞑る。土曜日午後にMに接した時は言わんとすることがいまいち伝えられなかったなと省みる。シミュレーションしたところで、だいたいわたしは昔から本番で贅言を弄する癖がある。それが核心をぼやかす。彼女から過去の衝撃の病の告白もあり、またも動揺してしまった。それにしても、滝之宿の冬美には笑ったな。フーミンて呼んでってあいつやっぱアホだな。そして強いや。

f:id:guangtailang:20210822185552j:image父親のこだわりで太東灯台に行く。彼は地理的な関心を抱くが、灯台の脇に咲いた花は一顧だにしない。母親はこちらにこだわった。見たことがない、この植物は何。花と言ったが、葉っぱにも見える。Hさんも涼しげだと興味を持つ。検索する。ハツユキソウトウダイグサ科トウダイグサ属の一年草。「それがわかっている人がここに植えたの?」と母親に聞くが、「そうかなー」と答えようがない。調べると、このトウダイは燭台の意味だった。

f:id:guangtailang:20210822185559j:image帰り、ランフオのナビ画面に赤々と伸びた渋滞を避けるため、高速を降りて千葉市街を走る。ここで、かつて─それは1974年頃というからわたしも存在していない─両親が住んでいたマンションが近辺に現存するというので、話には聞いていたがせっかくだから見てみたいとわたしが言う。いまだに住所を覚えている母親が車内から素早く見つける。駅前のそごうまで10分ちょいで歩いていける場所にそれはあった。方角はよくなかったが、キッチンの窓から少しだけ海、というか湾が見えたという。若いふたりはここと台東区の職場を往復していたが、さすがに通いきれなくなり、半年ほどで売却した。ヴィンテージ・マンションと表現すると、母親は嬉しそうだった。

玄関を出ると空が異様に暗かったので、見てみとパジャマ姿のHさんを呼んだが、キッチンにいるままだった。自転車に乗り、100mも走り出さないうち雨が降り始めたが引き返さず、みるみる強くなる雨脚といかずちの中を強行突破し、結果、事務所に着く頃にはプールに飛び込んだようになった。月曜日の朝からこれはほんとうに不快だよ。