川の照り

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ラブラドールの貌

f:id:guangtailang:20210915203449j:image台風か温帯低気圧が接近しているから土手を吹く川風は強めだった。プロムナードまで下りていくとさらに強く、お帽子を飛ばされぬよう後頭部のバンドをきつく締める。マスクをとってもこの場所なら構わない。Hさんは北関東の道の駅で買ってあげた蝙蝠Tシャツを最近好んで着ている。それが風ではためいている。

コーヒーゼリーを買いに行くよ、とわたしは言い、階段を上ってスーパーの方へ向かう。そのために黒地に白のラブラドールレトリバーの貌が染め抜かれたトートバッグを下げているのだ。Hさんはイヤフォーンで何やら講義を聴きながらついてくる。グラウンド脇の小道を通ると、耳を圧するほどの虫の音の大合唱だ。街路を横断し、早足で並びながらモモさんのことに話頭を振ってみる。彼女は帰国するとしても向こうの自宅近くの宾馆(ビングァン ホテル)に二週間隔離だとやはり言っていたよね。モモさんはオイスターソースを買ったらいいって。彼女はあんなにあなたに靴をプレゼントして自分の履くものに困らないのかしら。すると、Hさんの携帯が鳴り、モモさんから電話が入った。呉語方言で二、三分話して、切った。そのタイミングでわたしが「说曹操曹操就到」と言ったら、Hさんがにやにやしながら、「それ知ってるの」とわたしの首の後ろを揉み出した。つままれた猫みたいだ。シュオツァオツァオ,ツァオツァオジョォゥダオ。曹操の話をしていたら、まさに曹操があらわれる。噂をすれば影(が差す)。こんなことで得意になる一介の中年男性はコーヒーゼリー二つ、黄金桃、バナナ、バーモントカレールゥ、甘栗のパック、オイスターソース等を買いました。ラブラドールの貌に入れて帰宅。