川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

或る中国語学習者

2月だから今年の遅い、中国語サークルの新年会の席(浅草の中国料理店)で、どんな話の流れだったろう、Tさんが唐突に「親父とは二度と会いたくないからね」と呟いた。そこから彼の身の上話を聞くことになる。 Tさん自身すでに70半ばに達しようとしている…

マンスリーで人生はステップアップするもの

火曜、雨の夜。飄逸に歩を進めるFさん。この人が中国語学習会のコアになっているから25年もつづいているのだ。馴染みの店で紹興酒をちびちびやりながら、「途中で何年か九州に飛ばされとるじゃろ?」と古参の会員に同意を求めるFさん。「どうしてですか?…

酒肉朋友

フェイフェイが春節を故郷の青島で過ごすため帰っており、FさんとHさん(男性)、プラス僕の酒肉朋友、そして今回ゲスト参加の中国語サークル仲間Oさんの4人で晩飯を食っている最中、フェイフェイがいないのなら、このあと(彼女が普段いるスナックに)…

ボタンを買いに(再)

年をまたいで再度ボタンを買いにいった。中古で手に入れた黒のカシミヤジャケットが家にある。これがプラスチックのボタンまで黒で、全体に真っ黒だ。これを変えたかった。 着物姿の若人が散見される雑踏。三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』(2022)やヴィム・…

ボタンを買いに

日暮里や浅草橋にボタン専門店があるのは聞き知っていたけれど、昨晩布団に潜り込んで調べたら軒並み日曜日は開けていないのだった。それでも他に近所ではと親指を連打していると、浅草にいかにも昭和然としたYという店をぽつんと見つけた。ここは日曜日も…

令和の酔狂シリーズ

こんばんは。 家で長い文章を書く習慣がすっかりなくなってしまったので、自宅から歩いて来られる距離にある昭和のにおい芬芬たる連込み宿に泊まり、わりあいに清潔な布団に寝転がってこれを書いています。牡丹という名の部屋です。 と、書いてからまたしば…

また眠られない

日本時間零時に始まったアルゼンチン対ウェールズ、4時からのニュージーランド対アイルランド。手に汗握るおもしろさで、また眠られない。三ノ輪(住居表示でいえば台東区なんだが、荒川区南千住や東日暮里の感覚がある)ドールハウス猫のおてて『阿修羅和の…

赤まむしの粉末

ラグビーW杯がとうに始まっている。舞台がフランスなので、時差の関係で日本時間深夜0時45分からと明け方4時からの試合がほとんどなのだが、それらをムリしてけっこう観ている。おかげでお肌の調子もボロボロだ。おっさんだからまあいい。脳みそも午前中あま…

飛び退った八月

暑い暑いと皆と言い交わしているうちに八月が終わってしまった。今日も東京の最高気温は34度。まだ夏は終わらない。 中国語学習会に出る前にFさんとHさんが寄る中国物産店がこの昭和の小道にある。私もいつしか寄るようになった。主にココナッツジュースを…

人生の一日

先月28日にHさんの自転車が撤去された。その日の夜、彼女から連絡が入り、最寄駅にある区の駐輪場の、たしかに駐めたその場所に跡形もないとぎゃーぎゃー騒いだあげくに徒歩で帰宅、玄関の鍵を開ける音がした。僕はゆるゆると身を起こし、下りていった。「…

カンケイとカンセイ

中国語学習会の後半には造句(ザオジュ 作文)がある。この前の学習会は老師が脚のワイヤーを抜く手術をするのでお休みとなり、Fさんを中心に自習した。お題は〈中〉で、これを動詞としてザオジュする。意味としては、 1.(銃弾・宝くじ・賞・予想などが…

神田スタンダード会議室にて

暑いので簡潔にいきます。 毎週火曜日の中国語学習会のあとは近所の中国料理店で一杯の黒酢サワーと一皿の揚げナスをいただきます。皆すでに注文するものが決まっているので(特に飲料)、〈いつものやつ〉か、或いは何も言葉を発せずとも品が出てくる人もい…

作孽

プライム・ビデオで『在りし日の歌(原題 地久天長)』(2019/王小帅ワン・シャオシュアイ監督)を観た。 今朝、Hさんに「地久天長」ってどういう意味とペンで書きながら訊ねたら、それなら「天長地久」でしょうと言う。〈夫婦が一生涯添い遂げるみたいな…

下流におもむく

土曜夕。FさんHさんと浅草の中国料理屋で待ち合せ。この店の老班(ラオバン・店主)とFさんが長年の付き合いで、来月、中国語サークルの納涼会もここで催される。Fさん曰く、老班は北京人で、どこかのホテルで修業した人らしい。僕は先に店内に入ってし…

そこのみにて照り輝く

5月14日にHSK5級、6月25日に中検3級を受験した。前者の成績照会が6月14日より可能となり、ティンリー(聞き取り)68、ユエドゥ(読解)76、シエズオ(作文)73、ゾンフェン(合計)217分(点)だった。5級6級は合否の判定がなされないが、3部門で6割以上のス…

常磐ハイウェイ

曇天のいばらきフラワーワーク。 気がつけばもう6月で、全国的(北海道除く)に梅雨入りした。ある程度年齢のいった者なら誰もが実感し、口にする年月の流れる早さ。僕にとっても、己が着々死に向かいつつあるとしか思えない早さになっている。一週間の流れ…

火曜日の教室──我老了,

昨日の中国語サークルの帰り際、93歳の老翁が傘を持っている。最近天気が安定しないから〈今晩降るって言ってましたっけ〉と話しかけると、〈これはね、こうなんだ〉言うなり柄の部分をぐいっと持ち上げ、杖が出現した。かっこよいと思った。外に出て騒がし…

火曜日の教室

火曜日の中国語サークルは壮年47歳の僕が最年少で、次に花川戸に住む祭り好きの女性、あとは60代以上(全部で9人)といった風なのだが、最年長はなんと93歳の老翁である。23年余つづいているという歴史あるサークル、老師は遼寧省瀋陽出身と聞いている。僕は…

千葉大西千葉キャンパス教育学部2号館にて

連休中に京成バラ園に行った。ここもまあかなりの人出だった。バラの花を模したジェラートを前回来た時ふたりで舐めて、この日もHさんが買ってあげるよというので長い列に並んだが、途中で売り切れていることに気づいた。初夏のような日で、彼女も僕もサン…

エイチエスケイ

弟が〈まるで交通事故にでも遭ったみたいに突然いなくなってしまった〉と言った愛犬の死から数週間。実家にはすでに新しい柴犬の赤ん坊がいる。それは病を抱えた母親が犬のいない生活には一刻も耐えられず、ほうぼうの柴犬ブリーダーを訪ね、縁あって実家に…

犬の死

実家の柴犬が急に躰がいうことをきかなくなり、瞬く間に悪化し、夜半に死んだ。13歳と数ヶ月。そのことをラインで話してはいたが、Hさんは浙江省にいて見ていなかったから、日本に戻ったら言おうと考えていた。彼女もずいぶん可愛がった犬だった。 午前中、…

半世紀以上

ゆきはよいよいかえりはこわい。朝、渋滞情報を見ると赤い線がどこにもなく、ドライブすることにした。東北道は順調そのもので、空は気持ちよく澄みわたり、北関東道を西進すると群馬の山々がくっきりと眺められた。風は少し強かったが、穏やかな日だった。…

差不多(チャブドゥオ)でいいじゃない

Mに焚きつけられたわけでもないが、五反田駅東口の集を出て山手線に乗り、新宿地下道の雑踏で彼女と別れたあと、新宿線で神保町駅に降り立った。モーニングでトーストとゆでたまごを食べたから腹はさほど空いてなかったが、自然と地下の喫茶店に足が向かう…

タイ古式マッサージまで

ある夜、タイ古式マッサージの時間まで30分ほどあったので付近にある行きつけの喫茶店に入った。活舌のいい店員に案内され奥の禁煙席に座る。隣の席にTシャツにジーンズ姿の40くらいの男性とその向かいに小肥りの女性がおり、テーブルになにやら書面を出し…

アンセム

この試合は日本時間朝だけど、欧州のシックスネーションズと北米大陸の1次ラウンドを何試合か観て、体内時計が狂ってしまった。興奮したしおもしろかったからいいんだけど。写真はアメリカ対ベネズエラ戦でトレイ・ターナー(フィラデルフィア・フィリーズ)…

パーラートチギ並びにばんどう太郎小山50号店

とにかく風の強い日だった。東京も凄かったが、ばんどう太郎小山50号店の窓からのぼり旗がすさまじく捻じれているのを見ても、こっちは桁が違うと思った。 例幣使街道の名は吉村昭『天狗争乱』で知ったのだ。記憶だけで書くが、筑波山で挙兵した天狗党は例幣…

蘭州拉麺店火焔山前で

2月としては異例な暖かさの日曜日、Hさんと中国のおばさんふたりを連れて常磐道を北上、途中東に折れて片側一車線の道路を進み、鉾田市でいちご狩りをやった。その後、太平洋をみるというのですぐそばの鹿島灘海浜公園へ。ここにはもう何度も来ているが、こ…

水の流れ

海南島から帰ってきたHさんは翌日からすぐ仕事で上野やら西川口やら飛び回っている。三亜では朝から晩まで忙しかったと聞いていたし、海口、深圳、成田と移動も目まぐるしかっただろうから、大丈夫か、いちにちくらい家で休んだらどうだと言葉をかけても、…

茜さす 帰路照らされど…

ものすごい速さでマンゴージュースを飲み干すM。喉渇いてたからねと腫れぼったい顔で呟く。訊けば2時間しか寝てないらしい。その後すかさずベトナムコーヒー練乳入りをたのむ。彼女に会う直前までここロータスパレス赤坂の附近の街路灯に寄りかかり、ひなた…

膿を出せ

川の照りと題するならばこういうものを載っけるべきなんだ。午後4時過ぎの隅田川を下流に向かって撮る。西日に照らされて人気もなく妙に静かだ。おれの人生は物心ついた時から隅田川とともにあり、現在もまだ隅田川のそばに在る。初めて訪れた町ですぐに川を…