川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

碧いスーツケース

朝、スーツケースのナンバーロックの番号を忘れたとHさんが騒いでいる。この碧いスーツケースはこのあいだ買ったばかりで、三桁の番号はたしかふたりで決めたのだったが、わたしもまるで思い出せない。彼女はわたしを責め立てる。あなたの記憶力は落ちたわね。手術の麻酔のせいじゃない? わたしの妹も手術をしたあとそうなったと言っているのよ。麻酔のせいか知らないが(こっちは腰椎麻酔だし)、たしかに記憶力は落ちたと思う。先日も駅のプラットホームにMといた時、ホームドアに貼られた広告の男優さんにんのうち、いちにんの名前がどうしても思い出せない。わりかしよく見る顔なのだが。彼女も部屋にテレビがないという理由で思い出せない。「こうゆうのってあとで風呂入ってる時とか、急に思い出すんだよね」などと言い合い、その日は別れた。その次に会った時もふたりして思い出せず、結局Mが調べて桐谷健太だった。さて、スーツケースに話を戻す。わたしも言い返す。いや、番号はふたりで決めたが、主に使うのはあなただから、あなたの方が思い出せるはずだ。ちなみに横の鍵はないの? そんなのは注意していない。今はナンバーロックを解錠したいの!

階下にぷりぷりしながら去ったHさん。わたしは三桁なんだから一個一個順に回していけばなんとなかなるんじゃないかと思いながらダイヤルを弄っている。しばらくして、彼女が勢いこんで上がってくると、ちょっと思い出したと言ってヒントをくれた。それはたしかにわたしにも心当たりがあった。はたして、、ビンゴ!!  バチンと両側のフックが飛び出し、ガバッとスーツケースが割れた。Hさんも喜んだが、わたしも喜んだ。こうゆう瞬間て嬉しいものだ。しかし、わたしが少しも思い出せなかったという事実は依然残る。我记心不好。

f:id:guangtailang:20210926161606j:imageHさんのリクエストで茨城フラワーパークに行ったが、コロナの影響で閉園していた。なんか外観が瀟洒にリニューアルされた感じだが、中はどうなのだろうと思いながら駐車スペースを隔てて向かいの農産物直売所に入る。こっちはやっていた。経営母体が違うのかしら。そこの陶器コーナーで田中アルバさんの茶碗をふたつ買う。ニカラグア出身の女性で、数奇な運命を辿り、八郷地区に落ち着いた方らしい。もう少しカラフルなやつもあったが、茶碗があまり主張してもあれなので、渋好みのやつにした。

f:id:guangtailang:20210926161623j:imageさて、次はどこに行こうか。Hさんが野菜を買い足りないというので、道の駅しもつまに寄ることにする。なんか栗を運んできたおばさんと日本語で会話している。これは甘いか? どっちも大丈夫。という声は聞こえてきた。

f:id:guangtailang:20210926161637j:image筑波山の南側を西進する。Hさんが窓を開けてと言い、助手席側を全開にすると深呼吸している。たしかに濃い空気が入ってくる。クルマの中でもふたりの記憶力の話をした。そこから流れて、自分が若い頃、おっさんらがよく口にしていた、若い女性の顔が皆同じに見えて区別がつかない、そうゆうことはないのだがなあという話もした。

f:id:guangtailang:20210926161655j:imageしもつまで昼飯。建物内のマイクの販売パフォーマンス、実直にやっているのはわかるが、騒がしいので良し悪しだな。食卓のあるエリアではクラシックかジャズでも静かに流せばいいのに。今日はしょぼしょぼ雨が降ったり止んだり。『下妻物語』(2004)という映画は今でも好きだ。