川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

高速高架下音頭

f:id:guangtailang:20210828214350j:image夕飯のあと、ウレタン敷きのジョギングコースを歩く。今夜は川向こうの高速高架下に提灯の連なりが見え、そこから音楽が流れてくる。振り向くと、Hさんが立ち止まって向こうに目を凝らしている。興味あるのと訊くと、あるよとそのまま踵を返して橋を渡りそうな様子だ。悪いけどおれはない。おばあさんの盆踊りだろう。と蕪雑に言って、オレンジのキャップを脱ぎ、それで仰ぐ。ひとりで行くのかと問えば、それは行かないという。またふたりでしばらく歩いて、川辺のプロムナードまで下りていった。風が気持ちいい。彼女は川向こうばかり見ている。音頭はさっきよりも鮮明に流れてくる。ショートコースに変更して、橋の袂まで戻った。近くまで行くから、あなたは見てきなよ。おれは待ってる。と言い、白銀にライトアップされた橋を渡る。高速高架下はホームレスが寝床としている。彼らはおとなしそうで、さして危険でないにしても、率先してHさんを連れてきたい場所じゃなかった。ぱっと見でも薄闇の中に黒ずんで動かない人影がよっついつつあった。Hさんも気がついている。讨饭的(タオファンダ)と彼女は呼ぶ。川辺の盆踊り場所まで誘導して、ひとり戻ってきた。叢の虫の音と音頭が同じくらいのボリュームで耳に入ってくる場所まで。帰ったらコーヒーゼリーを食べようと思ったり、前回の短い時間じゃ満足できず、隔日の午後に会ったMにご機嫌だと鼻歌が出るタイプなんだなと言ったら、あたしはいつも歌ってますよと返されたことを思い返したり。そのあと歌ったのがかえるの合唱だった。この場所で盆踊りを眺めていると、なにかしら侘しいような気持ちが湧いてくる。が、それは郷愁をはらんで、嫌なものということでもなかった。川辺で風もあるから、というコロナ対策的な利点もあろうが。現代視点のコンプライアンス的にはダメダメなんだろうが、いろんなことが人懐こかった昭和の話をMともしたが、翻って今のところ令和ってのはロクな時代じゃないということになる。いつの間にやらHさんが戻ってきて、若い人もあるよと言う。若い人もあったとしても、見に行こうとは思わず、家に帰って三徳オリジナルのコーヒーゼリーが食べたかった。

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