川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ぬるっとした感触

f:id:guangtailang:20211001201248j:image風だけ残った。夕方に雨はやんで、退勤の人らがぞろぞろ外に出始めた。皆傘を畳んでいるが、強風で帽子を吹き飛ばされた人を見た。

Hさんはいちにち蟄居。口内炎をふたつもつくっているから、寝てればと出がけに言ったが、ほんとうに3時間くらい眠ったらしい。夕食後ウォーキングに誘うと、頭がぼんやりしているという理由で断られる。

川沿いを歩こうと思っていたが、うなる風に帽子を飛ばされ川に着水するイメージが脳裡をかすめ、スーパーまでの最短距離を行くことにする。そうすると以前住んでいたURの中庭を突っ切ることになる。怖いほど揺れる街路樹の枝、なにやらわめく鳥。久々にこの空間に身を置いた。集会所みたいな建物があり、そこの木のデッキの上を何歩か歩くと、ぬるっとした感触とともに靴底が滑り、あやうく後ろ向きにこけかけた。そう、これこれと思った。ここに住んでいた頃、雨上がりにウォーキングに出かけ、同じ場所で同じようにこけかけた。ビブラムのソールでさえぬるっと滑って抑えがきかない。気をつけようと何度もHさんと言い合った(彼女が階段から滑落して恥骨骨折するのは現在の家でのことだ)。越してからもう3年、いや4年か。変わってない。この感触をまざまざと思い出し、ひとりにやにやした。

スーパーではオリジナルコーヒーゼリーが売り切れており、やむなくサバランを1個買った。こんなことは今までなかったが。もっと遅い時間に来ても2個や3個残っていた。

帰り道もURの中庭を通り、慎重に木のデッキに足を乗せた。またぬるっとして、その感触の懐かしさに感染禍前の日々を想った。とりあえず、マスクの要らない生活が恋しくて仕方ない。

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