Hさんは6日の午前中にモデルナの2回目を打ったが、その晩も翌日も強い副反応はあらわれなかった。体温も最高で36.8度まで上がっただけで、打った腕が重いのと少し頭痛がするという程度。8日にはぴんぴんして自転車で買い物に行った。ただ、その晩のウォーキングは自重、わたしいちにんで歩いた。Tシャツでは肌寒いくらいだ。雨上りで人も少ない。虫の音ばかり煩いが奇妙に静かで、湿った草土の匂いがして、ぽつねんと憂愁を感じる夜だった。珍しくMからの返信が丸いちにちないと思ったら、〈体調がおにわるく、点滴を打ってました〉とのこと。少し前から気になっていたが、前回会った時にははっきりとやつれていると思った。相手が彼女だからそれを口に出して言った。そこからさらに躰が弱っているとは心が掻き乱される。破天荒はいいが、躰の状態を軽視してほしくない。9日の朝、ラストスパートとしての肛門の診察。サテライトのクリニックを訪れる。院長先生が来ている日。この方に執刀してもらってほんとうによかったと今あらためて思う。医者の中には接した時にげんなりさせられる者もいるが、院長先生とは何度も会って、その懇切丁寧な応対には感動を覚える。〈うん、何の問題もないですね。きれいなお尻だ。今日は卒業する人が多くて、さみしくなるな〉。建物の外に出てもまだしょぼくれた雨が降っていた。通りを渡り、向かいの建物の地下で卒業記念の高級カーフェイジェリーを食べる。ジェリーがちゃんと苦く、アイスクリームと一緒に舐めてちょうどいい。本格的なのだ。