川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

f:id:guangtailang:20210826230721j:image川端康成のこの小説は初めて読むけれど、相変わらず気色悪いものを書いてらっしゃる。気色悪いし、かなり端折るのだが、文章の美しさで幻惑されるから困ったものだ。いつも。こうした気色悪い欲望の虜になるのも人間ということか。今168頁まで。

f:id:guangtailang:20210826230728j:image神戸の祖母がいよいよ弱ってきたと連絡があり、母親が昨晩から向こうに行った。今朝、施設の部屋で面会できたという。意識はわりとしっかりしており、筋の通った会話もできる。ただ、躰の機能の方は就寝中にそのまま生命が止まるということがいつおきてもおかしくない水準だそう。酸素供給の機器を運び込んだというが、本人は使用を拒んでいる。そこはあくまで施設で、病院ではないからな。

そんな日の夜にMと会った。向こうの事情で時間あるいは曜日の変更を提案され、こちらも上記のような状況があったが、一度決めた日時を動かしたくなかった。気分の問題だ。ただ立っているだけで胸のあいだを汗が流れていく。改札口を通って近づいてきた彼女は髪の色が変わっていた。一部がグレーに染まっているが、その染まり方がありていに言って中途半端な感じがした。訊けば友人の美容師に染めてもらったのだが、事情で途中までで終わったらしい。メッシュじみて、自分で小金持ちのおばあさんみたいだと言う。アップにすると若さが戻った。短い時間で別れた。

同日、Hさんは上海のおばさんと昼から草加に行き、一緒に夕飯を食べて帰ってきた。と、玄関まで来て鍵がないことに気がついた。それで夫にすぐさまラインのメッセージを送った。彼はその時実家におり、神戸から帰る母親を待っていた。すぐには帰れないから、モモさん─上海のおばさん─と相談してうまく時間をつぶしてくれと返信し、内心少しうんざりしていた。彼女が鍵を持って出ない、それで家に入れないということはこれが何度目かだった。バッグを変えたからだ、とそのたび言った。最初の一回は客先から飛んで帰った。彼女が先に家を出て、夫が残っている状態でいつもそれはおきた。この熱帯夜でどう待つのか、と想像はした。ただ、今回はモモさんがいる。モモさんの家に行ってはどうかと提案すると、ヒール靴でそんなに歩けるわけがないとラインの文面からも少し憤慨したのがわかった。なんで怒っているのか、あべこべじゃないか。

タクシーで家の前に乗りつけると、彼女たちの姿はなかった。その前にラインで今どこにいる? もうすぐ着くよと送っていたからそのまま鍵を開けて入った。5分もしないうちに外で声がして、モモさんと別れの挨拶をしているようだった。どうやって時間をつぶしていたのか訊くと、ずっと近所の公園にいたという。ベンチに座ってお喋りしていたという。そんなに暑くはなかった。以上のように、夫は別に優しい人間じゃないが非情でもないのだ。