川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

茜さす 帰路照らされど…

f:id:guangtailang:20230212220635j:imageものすごい速さでマンゴージュースを飲み干すM。喉渇いてたからねと腫れぼったい顔で呟く。訊けば2時間しか寝てないらしい。その後すかさずベトナムコーヒー練乳入りをたのむ。彼女に会う直前までここロータスパレス赤坂の附近の街路灯に寄りかかり、ひなたぼっこしながら財布の小銭入れに入れたそれのことを考えていたのに、飯を食い始めると忘れた。Mが浅草のホテルに忘れておれが取りに行った指輪について彼女が口にし、あ、と思い出した。

萩原朔太郎の生活者としての姿は断片的には知っていたが、娘の書いた文章を読んであらためて優しく、弱い人だったのだなあと感じた。不器用とかそういう域を超えている。今なら毒親とも言いうる朔太郎の母親、慈愛に薄くエゴの強い最初の妻。このふたりにほとんど反逆や抵抗の意志を示さず、従順に頷いているか、書斎に逃げ込む、飲みに出かけてしまう。若い美男の頃の朔太郎はスタイリストのようだが、娘が書く晩年の彼は衣服に頓着せず、痔ろうに悩み、おどおどして、枯れ枝のように痩せ細って体力を失っている。それでも老眼で眼鏡をかけることや白髪染めを家族に隠そうとする。詩の仕事については母親も妻も理解がない。だから、彼女たちからみれば朔太郎は生活力のまるでない息子や夫にしか映らない。それでも愛おしそうに娘は父親を描く。頽れゆく朔太郎はつねに自分の味方だったと。

f:id:guangtailang:20230212220639j:imageある深夜、北半球ラグビー最強を決めるシックスネーションズアイルランド対フランス戦をWOWOWで観る。世界ランキング1位と2位の対決。攻守が目まぐるしく入れ替わる展開で、おもしろいことこの上ない。終わった後も昂奮してしばらく眠れなかった。

f:id:guangtailang:20230212220632j:imageMには他でもないマダムHのたのみなので悪いが今日は短めでとあらかじめ了承を得ていた。この後彼女は日枝神社を参詣すると言う。事務所までクルマを取りに戻り、東関東道をかっ飛ばす。午後2時半前には成田空港第一南ウイングに着いていたが、そこから到着ロビーで2時間以上待つことになった。その間、間歇的にHさんからメッセージが届くが、ビーグル探知犬があらわれ、マダムHの傍から動かず、胡桃をすべて没収されたらしい。珍しく音声メッセージまで届き、彼女がいらいらしているのが伝わってきた。

前方落ちてゆく夕陽は強烈なオレンジ色を発し目を射るほどだが、それでもサンバイザーは下ろさなかった。助手席で目をつむったHさんの横顔に声をかけ、溜池山王駅ナチュラルローソンで買った彼女の好物を渡すが、これがまた胡桃のお菓子だった。Hさんは無言でぽりぽりかじる。事故渋滞にはまり、行きの倍の時間かかって帰宅。

f:id:guangtailang:20230212220642j:imageこれを書いていて大学時代の教授たち、朔太郎の孫の萩原朔美氏、小説家の青野聰氏の思い出がよみがえってきたので、次回四半世紀前のおふたりについて書きます。