川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

火曜日の教室──我老了,

昨日の中国語サークルの帰り際、93歳の老翁が傘を持っている。最近天気が安定しないから〈今晩降るって言ってましたっけ〉と話しかけると、〈これはね、こうなんだ〉言うなり柄の部分をぐいっと持ち上げ、杖が出現した。かっこよいと思った。外に出て騒がしい大通りの歩道の端で老翁は空を見上げ、〈お月さんが出ているなあ…〉と呟いた。何かわからないが、こみ上げてくる感情が僕の中にあった。

時間が少し遡るが、休憩中トイレに行き小便器の前に立つと、隣りがFさん、その向こうが老翁だった。小便をほとばしらせながら〈今のテキストを終えると、別のやつをやるんですか?〉と訊くと、〈どうなんやろね〉とFさんが前方の壁を見つめたまま呟く。〈また最初に戻って同じテキストをやるとか〉。〈うん、わりとねっちり今までそういう風にやってきた〉。僕は個人的にテキストを終いまでやって最初に戻り、繰り返しやるという癖がない。だから、サークルの会員たちとねっちり同じテキストをやるというのは新鮮だし、おもしろいと思った。〈我老了(ウォラオラ わたしは年老いた)。だから、こう入っても、こうだもの〉Fさんが左の耳に手を当て注ぎ入れたものが、右の耳からそのまま出ていくジェスチャーをやった。学習した内容もすぐに忘れてしまうから、同じテキストを繰り返しやった方がいいということか。

後半の時間は「造句(ザオジュ 作文)」で、今回与えられていたのは「要是~多好(ヤオシ~ドゥオハオ もしも~ならどんなにいいでしょう)」だった。各々1個ずつ作ってくる。最初が老翁で〈我老了,〉から始まった。すかさずFさんが〈このあと皆さん、我也老了(ウォイェラオラ わたしも年老いた)で回していきましょう〉と言い、僕は笑った。笑っていない人もいた。老翁を登場させて作った僕のやつは何ヵ所も添削されるありさまだった。これだと先日のHSK5級の作文もひどいものの可能性がある。