川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

下流におもむく

f:id:guangtailang:20230703120327j:image土曜夕。FさんHさんと浅草の中国料理屋で待ち合せ。この店の老班(ラオバン・店主)とFさんが長年の付き合いで、来月、中国語サークルの納涼会もここで催される。Fさん曰く、老班は北京人で、どこかのホテルで修業した人らしい。僕は先に店内に入ってしまったのだが、案内してくれた女性は内蒙古人だという。彼女のお兄さんも店を手伝っている。黒酢酢豚、五目焼きそば、ピータン粥、ビール、ウイスキー、梅酒ソーダ。会計の際、日本語の流暢なその女性がサービスした金額を中国語で告げると、酒の入ったFさんはにやにやしながら〈我爱你(愛してる)〉とハグする真似をした。〈なるほど、この場面で使うんですね〉と僕が言うと、隣りでHさんがひひひっと笑った。

Fさんと話してると、どうしても友人Jを思い出してしまう。年齢は親子ほど離れているのだが。中国人と交流する仕方、また中国を俎上に載せる仕方はいろいろあると思うが、その応対その切り口その話藝がふたりは妙に似通っている。FさんもJもかの国の文化風俗、また在日中国人の実情に精通しつつも、ともすれば教科書には載りようもない下流(シャーリゥ・卑俗)な話に連結しようとする。つまりはチャイパブ仕様と言おうか。そんな風にして、半ば呆れられながら「色鬼」の称号を彼らは手に入れるのだ。しかしながら、色鬼に終わらない彼らの話の多彩さに触れるうち、ヒューモアを愛する中国人は全身諧謔家の日本人に親密さも覚えるだろう。

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f:id:guangtailang:20230703120323j:image席に座るとFさんHさん僕の順でおしぼりが配られ、二言三言中国語の挨拶が交わされる。初めてこの店にあらわれた僕におしぼりをくれた妙齢の女性が〈あなた中国語どこで習った?〉と中国語で訊いてくる。〈在酒吧学的(チャイパブで勉強したんだ)〉と答える。あ、そう来るのねとにやり彼女。〈何年習った?〉〈2年か8年〉〈長さ全然違うよ〉。Fさんが〈那你学了中文多久?(きみは中国語をどれくらい学んでいる?〉と訊き、女性が笑みを絶やさず〈28年〉〈これで齢わかった〉〈ほんとはもっとだけどね〉というような軽口の応酬。そう、この感じは10年前の上野仲町通りでJやSと夜な夜な体験していたものだ。

f:id:guangtailang:20230703120353j:image青島出身の〈彼女の名字、当てっこしようか〉とFさんが言い、僕が郭(グオー)、Fさんが王(ワン)、Hさんは周傑倫の「明明就」を唱っていた。正解は李(リィ)だった。彼女はほんとうに笑顔良しだ。Fさん「听海」、僕「菊花台」。Hさん、蔡依林の何かポップな歌曲を李小姐と一緒に唱う。