川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

カンケイとカンセイ

f:id:guangtailang:20230728094553j:image国語学習会の後半には造句(ザオジュ 作文)がある。この前の学習会は老師が脚のワイヤーを抜く手術をするのでお休みとなり、Fさんを中心に自習した。お題は〈中〉で、これを動詞としてザオジュする。意味としては、

1.(銃弾・宝くじ・賞・予想などが)当たる、命中する

2.(気持ち・考えなどに)かなう、合う

3.(毒・暑気・計略・罠・悪魔などに)はまる、引っかかる、被る、取り憑かれる

などがある。

僕が造ったのが、〈将军突然大声喊起来了 ❝我们中了敌人的奸计!❞〉で、日本語訳〈将軍は突然大声で叫んだ。「我々は敵のワナにかかった!」〉。奸计(ジアンジ 奸計)、これをワナとしたわけだが、病床の老師からは問題なしと返事がきたこれが、89歳の轟という字が名にある会長から〈奸計はワナというより、悪だくみでしょ〉と指摘があった。調べてみると確かにそうだ。では、罠はなんというのかな。

昨夕、仕事がらみでQ老師に会った。彼女は僕が中国語学習を始めた最初期にピンインや声調を叩き込んでくれた人で、その標準的な発音で学べたことに今でも感謝している。まだ陽射しのぎらつく、駅舎改装中の松戸駅西口の広場に佇み、取り出した中国の椰子飲料をごくごくと飲み干すと、僕は駅前の星乃珈琲店に入り、老師を待った。

仕事の話2、雑談8だったが、老師も興が乗ったらしく、気がつくとすでに時刻は午後6時半を回っていた。互いに晩飯を食べる相手が待っている。駅に向かう道すがら、ふと思い出し、〈ワナって中国語でなんていいますか?〉と訊くと微信に送ってくれた。陷阱(シアンジン 陥穽)。カンケイとカンセイ、なるほど、発話も意味もかなり似通った、ちょっとむつかしいこの言葉らは、たしかに日本語のうちにある。この薄毛の壮年、11月の日本語検定試験1級でも受けようかしら。

f:id:guangtailang:20230728141905j:imagef:id:guangtailang:20230728094548j:imageおまけ。ふたりはすでに故人で、大昔の話だが、文学者の会合で、中国文学がバックボーンの小説家武田泰淳にフランス文学がバックボーンの文芸評論家中村光夫が〈中国に〔人間〕という言葉はありますか?〉と問い、武田が〈あります。ありますが、人间(レンジエン)はこの世、世間の意味です〉というやりとりがあったと記憶する。

冒頭の絵画はデイヴィッド・ホックニーiPadで描いた。

f:id:guangtailang:20230728220952j:image【追記】実際はこんな文章だった。(武田泰淳文人相軽ンズ』構想社)。