川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

神田スタンダード会議室にて

暑いので簡潔にいきます。

f:id:guangtailang:20230713155257j:image毎週火曜日の中国語学習会のあとは近所の中国料理店で一杯の黒酢サワーと一皿の揚げナスをいただきます。皆すでに注文するものが決まっているので(特に飲料)、〈いつものやつ〉か、或いは何も言葉を発せずとも品が出てくる人もいます。座る席もだいたい決まっていて、僕の向かいには周傑倫(ジェイチョウ)歌いのHさん。

f:id:guangtailang:20230717092320j:imageある晩。Hさん、Fさんとさんにんで綾瀬のニーハオカラオケに行く。この店は駅から少し離れた住宅街の中にあり、知る人ぞ知る。最初、Fさんがバスに乗っていて、車窓越しに見つけたらしい。ニーハオカラオケだから中国語の歌曲を存分に唱え、ママは中国語話者だろうと。果たしてそうだったというわけだ。価格はえらく安い。ゆで卵が必ず出てくる。ママは台湾の人だから、パイナップルケーキも出てくる。この晩に出てきた杏仁豆腐とマンゴープリンは絶品だった。Fさんが例によって、〈これ、おれの打包(ダーバオ 持ち帰り)して〉と冗談を飛ばす。〈こんなプルップルなのにダーバオしますか〉と一応ツッコミを入れる。

f:id:guangtailang:20230717092314j:imageある朝。神田スタンダード会議室でHSK4級の試験を受ける。すでに5級を取得しているのになぜまた4級かという疑問は当然のものなのだが、4級は10年近く前に受験しており、今現在受けたらどんな風に感じるのだろうという関心から受けた。その頃は池袋の中国語教室に週一で通いながら一所懸命学習し、听力90、阅读84、写作72、総得点246点で合格した。今回は特に試験対策せずにぶっつけ本番で臨んだが、それぞれ85点以上はいっているでしょう。試験を終え、さきほど来た神田西口の商店街を戻り、駅高架下の珈琲園神田北口店に入り、Mを待つ。

f:id:guangtailang:20230717092317j:image間口が狭く内部が見えないのでちょっと入りにくいこの店のはちみつを垂らしたコーヒーゼリーはうまい。アップヘア、上気した顔であらわれたMにも勧める。彼女とのつきあいもすでに2年半だが、相変わらずおもしろい女だ。表情をくるくる変えながら、奇天烈な発想を口にする。偏見や先入見なく人の話に耳を傾けられるのも美質だ。ただ、気分次第で意見や行動が短期で変わるところはある。融通無碍と呼ぶには気分に支配され過ぎている。無論これは彼女に限らないが。同棲者の影響で昼夜逆転の生活らしいMだが、その影響がなんとなく躰にあらわれて、少しだるそうなのが気がかりだ。

また神田西口の商店街を通り、〈朝に試験を受けに歩いた場所を、今またこうして不思議な女と歩いている〉と呟くと、〈それがあなたでしょ〉と言われる。

f:id:guangtailang:20230721134117j:image国語学習会。僕はまだ入会していない時期だが、上記テキストを読む段になると老師が急に口を噤み、これはやめましょうと、飛ばして次の課にいったらしい。黒酢サワーを飲みながら聞いた話だ。当時老師は脚の手術を控えていた。高齢者が多いため、学習者の中に体調の思わしくない人もいた。〈おれもあの時がんだったんだから。大腸がん〉とFさんが言う。内容が縁起でもないということだろう。老師のご両親は中国にいるのだろうし。

それで思い出すことがある。先日、Hさんと日本橋のコレドに行き、長いエスカレーターを下っていた時のこと。僕が左側の吹き抜けの空間を見下ろしながら〈ここから落っこちたらほぼ死ぬな〉と日本語で呟くと、〈不要说!别这样说!(言うもんじゃない! そんなことは!)〉と彼女が怒ったように言う。今までも、ロープウェイに乗っている時、クルマで細い山道を上っている時、僕が縁起でもないことを言うと怒られる。言葉が唇に上ることによって何か事件を出来させる、引き寄せる、言葉にはそういう力がある、それをHさんは僕などよりはるかに信じているのだ。

他方、Mだったら。〈手、バタバタさせながら落っこちていったら衝撃弱まって死ぬまでいかないかもよ〉とか言いそう。