2月としては異例な暖かさの日曜日、Ｈさんと中国のおばさんふたりを連れて常磐道を北上、途中東に折れて片側一車線の道路を進み、鉾田市でいちご狩りをやった。その後、太平洋をみるというのですぐそばの鹿島灘海浜公園へ。ここにはもう何度も来ているが、この日の海は特に穏やかでも荒れてもなく、風も強くも弱くもなく、砂浜でフリスビーを投げればそれなりにまっすぐ飛ぶし、たまに風に煽られることもあったが、変哲もない海浜だった。ただ、いよいよ今年初めて目の痒みとサラサラ流れる洟水を体感した。
昼食の時間が中途半端になり、この近辺のレストランや食堂の営業時間をはずしてしまい、結局帰路の友部ＳＡで食べた。それもおばさんたちはでかいいちごを食べ過ぎて腹が減っていないと言い、僕だけ。牡丹江出身の于姐がついてくるので何かと思ったら食券機のところでサッと千円札を2枚僕に差し出した。
車中、後部座席に向かって助手席のＨさんが躰を捻って話しかける。于姐がそれに応えるが、Ｈさんが何度か聞き返す。車内に風を入れるべくサイドウインドウを少しだけ開けていた。スピードを上げるほどパタパタと叩くような音が大きくなる。それに音声が遮られるのだろう。あなたはマスクもしているし、聞こえずらいとＨさんが言っているのを聞いて思わず笑ってしまった。黒竜江出身の標準的な普通話を喋る于姐に4と10の発話でたびたび僕も惑わされる非標準的なＨさんが言っているのだから。于姐は悪びれず聞き取りやすい発話で少しだけ声を張る。
火曜日の夕方、浅草でＭと会う。彼女はラザニアをたのみ、僕は昭和のプリン。今日は猫の避妊手術をしてきた、明日は彼女の娘が鼻の整形手術をする、などわりかし饒舌に話す。同棲相手に飯をつくってあげるのと訊くと、つくるはつくるけどつくるのは好きじゃないと。味の好みもそんなに合わない。その男は四谷の居酒屋で雇われ店長をやっている。味にうるさいらしいが、Ｍはそうじゃない。
水曜日の晩、アマゾンプライムビデオで『旅のおわり 世界のはじまり』（2019・黒沢清監督）。動き回る前田敦子を目で追う2時間、そういう映画。勿論他にも少数ながら撮影クルーの面々やウズベク人通訳が出てくるが、前田敦子に拮抗する存在感も立体感もなく後景に留まっている。実力のある俳優ばかりだからわざとそうしているのだろう。とはいえ彼女も仕事に対する責任感から偽のはつらつさを演じているだけで素の表情は口数も少なく冴え冴えせず（まあこれも演技だが）。ヤギ解放の挿話は自らの境遇と家畜の不自由を重ね合わせているのだろう。最後にブレイクスルーがある。
黒沢清×前田敦子でいえば『Seventh Code』（2014）という小品ながらおもしろい映画があり、こちらはウラジオストックが舞台だ。
木曜日の祝日、僕は北千住に散髪に、Ｈさんは池袋にヘアカラーに行く。その後池袋の蘭州拉麺店火焔山前で合流。羊肉拉麺、羊肉串、あと骨付き羊肉を茹でたやつと羊肉のオンパレード。最後のやつは食い切れず打包。とＨさんが、料理が来たときから油っぽいと感じてたの、この前もそうだった、最初にたのんだときはこんなのじゃなかった、ところで西川口の系列店はしょっちゅう行くけど、こないだ行ったら服務員が日本人しかいなくて注文しづらかったわなどと老板娘に言っている。クレームのように聞こえるが互いに笑みを浮かべながらのやりとり。常連の交誼（よしみ）ということもあろうし、中国人は飲食に関して忌憚なく言うのだとしても、マダムＨはこういうことを言っても決して厭味にならないところが人間的美質だ。老板娘が骨付き羊肉用のスープを容器に入れサービスしてくれた。
店を出た後、信号を渡った向かいにあるラブホの前でスープの入ったビニル袋を持っているさまを撮られる。特に意味はないだろう。
おまけ。美容院で髪を刈ってくれたのが今回初めて、娘と言ってよい年齢の佐世保出身の女性だった。玉名出身のＡの話を念頭に、熊本まで陸路だと遠いんですよねと振ると3時間くらいかかるんじゃないですか。ほとんど行きませんよ。フェリーだと？まあクルマよりは近いですよね。長崎は複雑な地形をしている。あとで調べると佐世保と長崎市もけっこう離れているじゃないか（およそ90km）。福岡の専門学校に通っていたという話の後、僕が呼子のイカを絶讃するとそれには彼女も食いついてきた。呼子のイカすごいようまいねと言い合った。鹿児島は？行ったことないです。下は基本行かないんで。とのことだったが、僕は行ってみたい。
