川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

エイチエスケイ

弟が〈まるで交通事故にでも遭ったみたいに突然いなくなってしまった〉と言った愛犬の死から数週間。実家にはすでに新しい柴犬の赤ん坊がいる。それは病を抱えた母親が犬のいない生活には一刻も耐えられず、ほうぼうの柴犬ブリーダーを訪ね、縁あって実家にきた子だ。母親は赤ん坊であるその子の世話に明け暮れているが、張り合いが出て元気になった。

f:id:guangtailang:20230426121839j:imageと書いて、勿論それは事実なのだが、柴犬の赤ん坊にまず一目惚れしたのは父親らしい。一旦、下町の路地にあるその犬舎を出て昼飯を摂ったらしいのだが、そこでも車中でも「さっきの犬、可愛いなあ。あれだとすぐ他の人にもらわれてしまう」と父親がずっと言っていたらしい。母親もシジミ貝のような眼をした赤ん坊がめざましく思い出され、犬舎に取って返し、彼女をもらうことにした。病のことも年齢のこともあるが、それでも晩年を一緒に過ごしたいと思った。

f:id:guangtailang:20230426121835j:image中国関連書籍のリアル店舗というと、まず神保町の東方書店、内山書店が思い浮かぶが、池袋駅西口北すなわちチャイナタウンに聞聲堂中文書店というのがある。この書店が入っているビルにHさんと何度か来たことがあるが、今回、久々にひとりで足を踏み入れてみると、書籍のフロアのはずが、まず濃厚な中華食材の匂いが鼻を突いた。それらの混ざった生暖かい空気が漂っている。見れば空間の大半にテーブルと椅子が置かれ、中国語話者たちがむしゃむしゃと食事している。屋内屋台風の店舗が進出していた。書店はというと、あるにはあるがいかにも脇に押しやられ、本は乱雑に積み上げられたり、書棚に蕪雑に突っ込まれていた。しばらくのち、Hさんともう一度来て感想を訊いたのだが、〈本とカフェなら相性がいいけど、あれはダメだな〉というしごくまっとうな意見だった。付言しておけば、大陸にも洒落て規模の大きい、カフェの似合う書店はたくさんあるみたい。

f:id:guangtailang:20230426121831j:imageというわけで、格非(グァフェイ)『桃花源の幻』(2021)とHSK6級のテキストを、MからもらったQUOカードを使って買ったのはジュンク堂池袋本店だ。実は5月14日に開催されるHSK5級の試験を申し込んでいる。その回、なぜか東京会場がなかったので千葉市まで行く。4級の試験を受けたのはかれこれ10年も前で、その後中国語話者との同居生活を送っていても試験に対するモチベーション(学習意欲)は湧いてこなかった。それがこのところ俄然やる気が出てきて、5級を受けるのだからそれに連結して6級のテキストも買ってしまおうというほどになった。ひとつ大きな動機づけとなっているのは、Hさんの孫、僕を好いている應嘉麟(インジャーリン)とお喋りしたいということがある。彼の母語吸収(会話)は日進月歩である。であればまずは会話の上達に照準すればいいんじゃないかと思うかもしれないが、それは僕の目標とするところと少し違う。総合的な中国語運用能力で應嘉麟に〈この日本人のおっさんは一体なんなんだろう〉といういう深い印象を与えたい。

f:id:guangtailang:20230426121827j:imageMから借りている『恥部替物語』も『桃花源の幻』も余華(ユィファ)『文城 夢幻の町』(2022)もとりあえず試験が終わってからだ。