川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ガングリオン

昨晩は同業者との暑気払い。夕刻、事務所を出て自転車で駅に向かっていると涼しい風に顔を撫ぜられた。前方を歩いているサラリーマンの手には傘が握られている。関東に台風13号が近づいており、明日には上陸の恐れもあるという。

上野の居酒屋。座った向かいにKという、仕事でも業界組織でもあまり付き合いがないが、吉林省出身で、10代の頃に日本に来たという男がおり、しばらく雑談した。現在30後半の彼はネイティヴとほぼ変わらない日本語を話す。彼が私に奥さんは中国のどこの出身ですかと問い、私は日本人に説明するように「くい」と書く方の「こうしゅう」だと答えるが、いまいち腑に落ちていない様子だったので、上海の南の「こうしゅう」と言うと、ああ、と合点がいったみたいだった。「あの辺は、日本人といちばん合いますね。言葉とか、食べ物とか、人の感じが」。これは中国東北人がわりかしよく言うことで、彼ら彼女らからみると、中国の南方人(江南人)は自分たちとはよっぽど違い、むしろ南方人(江南人)と日本人の文化的相似性を見出すようなのだ。『天平の甍』もそうだが、歴史的に江南地域から日本に伝播した文物は多いし、気候も日本と似ているから、それは正しいのだろう。かたや東北地方は長いこと「化外の地」で、異民族が跋扈していたのであり、19世紀後半の「闖関東」まで、漢民族自体がほとんどいなかった。気候も冬季の寒冷の厳しさは島国にないものである。19世紀末にロシアが鉄道敷設に乗じてハルピンの街をつくったり、20世紀に入って日本人が満洲国をつくったりしたが、それらは広大な原野の上に築かれたいかがわしい人工物であり、結果、徒花的な遺構として残置されたに過ぎなかった。漢民族はタフだから、それら遺構をアレンジして今も使っているが。。そんなことを酔った頭でつらつら考えた。Kはゴルフが好きなようで、それについて横の仲間と楽し気に話し始めたので、ゴルフを一切やらない私は奥の方の席に移動した。

小便から戻ると、さっき金沢旅行の夜の話をしていた友人がどこかに行ってしまっていたので、ハイボールを飲みながらぼんやりと辺りを見廻す。皆、平和に酔っている。グラスを置いた拍子に自分の右手首に視線を向けると、またぞろガングリオンが出現しているのに気がついた。嫌だなあ。手首を曲げたり反らしたりして凝視する。指で押し込む。このジェリー状の瘤は忘れた頃に毎回同じところにあらわれる。別に痛みもないから放っておいて、そのうち自然消滅するのを待つのだが、結構長いあいだ消えない。帰宅してからも、仰臥しながら矯めつ眇めつした。雨には降られなかった。

f:id:guangtailang:20180807230140j:image8日。バーチャル高校野球にて金足農対鹿児島実を見た後、悪天候を押して瑞華に行く。鶏肉とニンニクの芽の黒胡椒炒め。帰り、変に撓む傘が却って不便で、スラックスがびしゃびしゃになる。いよいよ台風が近づいている。

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