川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ギリシャ型の趾

f:id:guangtailang:20220104184410j:imageTはリモートワークなのかな、会社に通っているような話もしていたが、ほとんど毎日喫茶店には行くという。2軒ハシゴすることもままある。カフェと言ってもいいのだが、僕と最初に行ったのが上野のギャラン、そののち丘だったからこれらはやっぱり喫茶店と呼ぶべきでしょう。タバコの臭いや煙もさほど苦にしない。いつもそんな店の片隅に座り、パソコンをひらいてコーヒーを飲みながら、色白で長い、やや骨ばった指でメールをぺちゃぺちゃ打っているそうだから。

彼女と2回目に会った時はこれまた上野の仲町通りでラムチョップを食べた。午後6時半で店内はほぼ満席。予約していたから奥の横並びの2席が確保されていた。さんざめく声の塊が空間を一層暖める。運ばれてきたラムチョップを撮るT。そのTの指を撮る壮年。こういう指の人は趾もきっときれいだと、谷崎先生なら勿論知悉しているし、不肖僕も知っているのであります。程よく酔いがまわってきたところで我がフットフェティシズムについて話してみると、存外引くこともなく、涼しげな二重瞼を少し眠そうに持ち上げて、「それでいうとわたしはギリシャ型ですね」とこともなげに言った。

帰り際、足元に収納されていた籠の中の鞄を取り出そうとしゃがんだ彼女のオフホワイトのロングコートの裾が床にくっついていた。「コートの下、ずってるよ」と僕が言うと、「はい、それも織り込み済みなんで」と返ってきて、一向に気にする様子もなく同じ姿勢で鞄の中をいじっているので、僕は愉快に感じてニヤニヤした。そののち、駅に向かって歩きながら、ルノアールの看板が見えたので、地階のその店へ降りて一杯ずつコーヒーを飲んだ。2回しか会ってないのに、Tと喫茶店に入るのはトータル4回目だ。「夏ならいくらでも見られますよ、サンダルになるから。でも仕事でピンヒールのパンプス履いて常に移動しているからボロボロだよ~」と語る彼女に、夏までは待てないと心の中で呟く壮年であった。午後9時半解散。

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