川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

オトナのパフェ

f:id:guangtailang:20220911183232j:image山の上ホテルのコーヒーパーラーでたのんだ洋梨のパフェは写真で見ると丸ごと一個どんと上に乗っかっており、同行の24歳女性とこりゃすごいねと言い合った。それが運ばれてくると、「こちら飴細工になっております。カポッとはずせますので」と言う。えーそうなんだと24歳女性のテンションに合わせるように驚く壮年46歳。たしかによく見ると洋梨は透けていて、内部が空洞なのがわかる。食べ進めると下面のスポンジにラム酒か何か染みて、「オトナのパフェですね」と彼女。甘さ抑えめで壮年も完食したが、飴細工は甘くて残してしまった。11時半過ぎの開店直後に行ったがすでに満席で、銀河という宴会場に移動して20分くらい待った。坂の斜面に入口のあるコーヒーパーラーは一応地下扱いで、銀河が1階となる。途中で会う従業員の人たちはホスピタリティに溢れ、気持ちがいい。ホテルだから当たり前と言えばそうなのだが、件の観光農園の人たちも己も見習うべきものがあると思った。そして、内装から食べ物から巧緻な意匠で目を楽しませてくれるから、是非ともここで時間を過ごしたいとなるのだ。ちなみに24歳女性はシャインマスカットのパフェ。

f:id:guangtailang:20220911183253j:image吉祥寺でパン屋のアルバイトがあるという24歳女性と御茶ノ水駅で別れてから映画までまだ1時間半ほど時間を消さなければならなかった。壮年は神保町の地下の喫茶店に下りてゆき、ここは喫煙席の方が雰囲気があるし広いので、そちらに座った。さっきのコーヒーパーラーは地下と言えどもガラス窓から光が入ってきたが、こちらはほんとうの地下らしく、黒ずんだ空間に紫煙が漂っていた。いちにち限定10食という自家製コーヒーゼリーをたのむ。オトコらしい見た目だ。スプーンを動かしながらラインをひらくと、24歳女性からセンチメンタルサーカス第2幕のスタンプとともにお礼のメッセージが届いていた。

f:id:guangtailang:20220911183303j:image10時45分、女性に会う前に15時40分上映の『裸足のブルージン』(1975)のチケットを買いに神保町シアターへ。これを観れば藤田敏八の撮った映画はコンプリート鑑賞したことになるんじゃないか。15時28分、再び館へ。ここは座れるような待合スペースがないので、皆突っ立って待っている。白髪頭、禿げ頭、昔青年今60台といった見た目の客が多い。神代やビンパチをリアルタイムで見てきた世代だな、と思う。『裸足のブルージン』はソフト化も動画配信もないだろうから、得難い機会にここで観る、ということだろう。

映画は若き和田アキ子が主演だが、見ていくうちにどうもそうではなく中盤から登場する原田芳雄がメインというか道化としてめちゃくちゃに映画を掻き回し始める。和田のクローズアップが多いが、けっこう美しいというかチャーミングでそれなりに見れてしまう。横須賀にあるうらぶれたドライブインのいちにちを描いており、役者たちは建物や前面の空き地から外へ出ず低予算丸出しなのだが、当時の風俗が興味深い(この過去を好ましいと感じるのは、近過ぎず遠過ぎないからか)。最後、和田がドライブインを破壊するのはのちの『スローなブギにしてくれ』(1981)を予告し、和田が大きな足でブイを高々と蹴り上げるのはまえの『八月の濡れた砂』(1971)を思い出させないこともない。

この映画でいっこ思い出したエピソードがある。若き時任三郎和田アキ子の番組で自らが主演した『海燕ジョーの奇跡』(1984)の宣伝をした時、和田は最初あまり興味がなさそうだったが、藤田敏八が監督したことを知ると、なに、パキさんの映画なの?!だったら観る観る!と俄然興味が湧いた風だったという。

f:id:guangtailang:20220911183236j:image湯島聖堂。24歳女性にこのあとどんな映画観に行くのと訊かれたから、「むかしの映画だから、知らないと思うよ」と答え、ミニシアターでやっているようなのが好きなんだと付け加えたが、その話はそこで終わり、彼女の早口を捉えて髙橋ひかるを例に挙げ、早口でも活舌がいいんだし、相手に言葉を伝えようという気持ちがあるからいいんだと、パンを売っている姿を想像しながらいいんだいいんだと肯定した。

18時半帰宅。