川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

コーヒーとパン

f:id:guangtailang:20220106095318j:image神戸の祖母は、わたしが今まで見た中でもっとも衰弱していた。施設の部屋にまず母親が入って、「あれ、いない。トイレー?」と呼んでいる。中から呂律の怪しい応答があり、後ろのわたしにも聞こえた。「電気消してるの。点ければいいじゃない」と母親がスイッチを押すと、半開きのスライドドアからパンパンに腫れた足の甲が見えた。「今日はちょっと浮腫がひどいね」と母親がわたしと父親に向けたように言葉を投げる。

室内で2回転倒したことにより施設職員が取り付けた突っ張り棒をたどってベッドに着くと、祖母はすぐ横になった。これだけ足が腫れていると歩くのも痛いだろう。鼻には酸素の管をつないでいる。意識も朦朧としているようで、目薬をわたしが持っていってしまったとか、スイカは食べたのか、などと壁の方を向いたまま言った。躰を起こして話をするのは今日は到底ムリで、母親は「もういちにちいちにち」だと言った。そんな彼女も元旦の家族会議で〈トリプルネガティブ〉であることを明かしている。 

週に4回来ているというマッサージの女性の来訪を潮にわたしたちは辞去した。

f:id:guangtailang:20220106095334j:image祖母や母親、そしてだいぶ前にこの世を去っている祖父も来ていたという喫茶店洋梨のトーストとコーヒー。やたらにうまい。この祖父は出身地の鳥取をしょんべんたれ国とかなんとか厭っていた人だ。山の中だったらしい。

f:id:guangtailang:20220106095349j:image夜はハーバーランドの高層階の和食店でさんにん横並びになって眺望を楽しむ。日がとっぷりと暮れて、極彩色に明滅する観覧車の向こうに、以前、女のドタキャンに遭い、淋しさ悔しさから嬢を部屋に呼んでローション1本半を使ってヌルヌルになったホテルが一望できた。アルコールの力もあって内心センチメンタルにもなったが、勿論両親の前でそんなことはおくびにも出さない。

f:id:guangtailang:20220106131335j:image翌日は祖母の家の整理をしたあと、三宮だとガチャガチャするだろうからという両親の発案で明石海峡大橋の袂にある舞子ビラで昼飯。たしかにのんびりゆったりして、ジャワカレーがうまかった。天気も須磨の辺りを走っている頃、急に晴れてきたので大吊橋が瀟洒な輝きをみせていたが、この同じ時間に関東では降雪があったのだ。

f:id:guangtailang:20220106135628j:image明朝、帰京に向け出発するが、朝食はやはりコーヒーとパンだ。

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