川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

174+

f:id:guangtailang:20211218212027j:imageM駅でSが黒のダウンコートを着て姿勢よく立っていると、それはもうすぐに目につく。ランフホを停めて、運転席から手を振る。彼女は乗り込み、九州土産の西郷どんの黒豚みそをくれる。

往路で事故渋滞。銚子には昼前に着くはずが、13時に近くなってしまう。銀色の遮音壁が派手にぶっ壊れ、その先の路肩に駐められたトレーラーの脇を通り過ぎると一気に流れ始めた。

f:id:guangtailang:20211218212049j:imageというわけで、先に昼飯を食べる。海鮮丼とメヒカリの唐揚げ。途中、酒々井PAで降りた時は陽射しがたっぷり注ぎ寒くなかったが、銚子港では冷たい風が吹き荒れており、髪がむちゃくちゃになぶられ、ふたりともダウンを着た。これじゃ犬吠埼はとてつもない風だろうなと言いながら。Sは千葉在住だが、銚子は初めてだという。

f:id:guangtailang:20211218212617j:image犬吠埼では白亜紀の地層を見たり、岸壁に打ち砕ける波に遊んだ。特に後者はいい感じの砕け方をする波頭とともに写真に収まりたく、その場に30分近くいた。自然相手でむつかしかったが、この時はふたりともキャッキャラと歓声を上げ、童心に帰った。その後、灯台に上る。Sのショートブーツを履いた長い脚が、すれ違うのも大変な狭い階段を踏みゆくのを陶然と眺めるポジションを壮年はとっている。

灯台の上はまあとてつもない強風だった。Sはすでに長い髪を束ねている。頬に触れるとビンビンに冷えていた。ただ、壮年の頭には女と岬へ来たことの満足感がじんわり広がっている。今の彼にとっては、密室の交接と強風の岬に来ることのどちらを欲望しているのかよくわからなかった。

それから、夕陽に染められた屏風ケ浦に行った。それをSは今年見た中で一、二の光景だと言った。この年末にそれ出ちゃうのと笑い合った。お世辞で言ってくれたのかも知れないが。いや、それでもこの日この時間の屏風ケ浦は異様に目に染みた。猫がやたらいて、すさまじい強風の中で地元の人がエサをやっていた。

復路でまた事故渋滞。都心に近づいてまた渋滞。オレンジと藍のグラデーションに暮れなずむ空を見ながら、車内で彼女とひとしきり雑談した。

f:id:guangtailang:20211218212629j:image帰宅後、冷蔵庫にあったサバランを食べながら、犬吠埼テラステラスのカフェでココアと醤油ラテを飲みつつ、EEZ排他的経済水域)やテラスの剝き出しの天井のメンテナンスの話をしたことを思い出し、174+ヒールと呟いて、僕より高いところにある目線を思い出すと、ニヤニヤした。