川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ビンビン

f:id:guangtailang:20220101210440j:image新年あけましておめでとうございます。わたしから中国のHさんにもそのように微信で送ったが、向こうはただの休日で特に新年を祝っているわけじゃない。彼女はわたしの母親にわたしが彼女に送ったのをコピペして新年の挨拶を送ったようだが、鳥居や酒瓶の絵文字が彼女らしくないので、あんたのを使ったのねと母親にバレられていた。午前10時過ぎ、快晴の街路を自転車で駆ける。ダウンジャケットにネックウォーマー、手袋と防寒していても隙間からビンビン風が入ってくる。この紫のネックウォーマーは新潟空港からハルピンに飛ぶ前に市街で買ったやつで愛着がある。

実家に着くと、はしゃぐ柴犬にお年玉のエサをやり、両親とともに弟を待った。わたしの家にはウィスキーばかりあるが、この家にはワインばかりあってウィスキーが一本もない。なぜか紹興酒はどちらの家にもある。外を覗こうとして窓がすりガラスに変えられているのに気がついた。これは目の前にマンションが建ち、向こうから覗かれる心配があるからと母親がやったのだろう。弟は午後1時半を過ぎてもあらわれない。元旦はいつもこのようなのだが、今回少し違うのはおせちを食ったあとに母親から家族会議を催すのだと聞かされている。雑談ではない。

黒装束にサングラスの弟が来て、あんた漫画の登場人物みたいねと母親に言われ、柴犬が飛びあがって彼にじゃれついた。四人とも齢だから、おせちはちょびちょびつまみ、このぐらいでとしまい、コーヒーを飲む。わたしはワインで顔を紅潮させているが、向かいの父親も老猿のように紅い。沈黙が多くなって雰囲気が醸成されたから、母親がおもむろに話し始める。その内容をここで詳らかにはしないが、ひとつ〈トリプルネガティブ〉という言葉、検索すれば出てくる。父親が数冊のパンフレットをこちらに滑らせ、それはウィッグのものだった。

午後5時前に弟が去り、半にはわたしも実家を出た。不忍池を吹き渡る風はビンビンとして、わたしは母親の言葉を反芻しながら上野駅まで歩いた。