川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

間違いなく美麗

f:id:guangtailang:20210704221637j:image新しいクルマが来たというので、橋を渡ってディーラーまでいそいそと行く。向こうで父親と待ち合わせ。雨は降ってるのかやんでいるのかわからない、その程度。午前10時52分に到着したが、父親はすでにいて、シルバーの車体を矯めつ眇めつし、あるいは撫ぜている。この人の生涯の趣味はクルマの運転で、何台も乗り換えてきているが、車体以上にシルバーの頭髪にはこのクルマが最後となるだろう。わたしは友人の助言によりランフオと愛称をつけた。

f:id:guangtailang:20210704221647j:imageその前の晩。「今日もね、ラグビーの試合(橄榄球比赛)があるのだけど、午後9時からで早いから。あなたはそっちで会議、わたしはこっちでテレビ観ます。大丈夫?」といった感じで、Hさんから3階で観ることの了承を取り付けていた。Mと話していて、なぜラグビーボールはあんな形なのか、とわりかしありそうな質問が出た。わたしもよく知らない。手で持って運びやすいから、転がり方が不規則でおもしろいから、とか思っていたが、調べたら起源のもっとも有力な説として、〈豚の膀胱をラグビーボールの材料に使用していたから〉というのがある。膨らませるとああゆう楕円形になるらしい。橄榄(オリーブの実)なんて洒落たものじゃなかった。

アイルランドのホーム、アビバ・スタジアムで31対39。アイルランドがブリティッシュアイリッシュ・ライオンズに中心選手を出していて若手主体だったとか、いろんな見方があるんでしょうけど、試合自体は取って取られてでおもしろかった。コロナの影響で選手を揃えられなかったトンガがオールブラックス相手に0対102という試合もあったそうだ。

f:id:guangtailang:20210704221701j:imageJSPORTSの解説陣は落ち着いており、クレバーな大人の魅力を湛えている。取っても取られても冷静沈着に分析し、かといってお堅く終始するでもなく、時にユーモアを交える。その内部にはラグビーへの滾る熱情があるのだが、それが外部にあられもなく出ることを抑制している。わたしが27、8の女だったら、こうゆう人たちとご飯を食べに行きたい。

f:id:guangtailang:20210704230811p:plain『卍』(1983・横山博人監督)をDVDで。谷崎潤一郎の原作を2回目の映画化。時代を現代(当時)に移し替えている。前半は興奮した。まず、樋口可南子の美麗さに息をのむ。それに見惚れているうちにゆうに30分は過ぎる。彼女が喋るのは関西弁。それがまたいい。『早春スケッチブック』の彼女も美麗きわまりないが、みれば同じ年なのだった。HさんとMのふたりに1983年の樋口可南子の画像を見せたところ、〈間違いなく美麗〉という同性からの評価を得た。女がふたりに男がひとり。女同士は床にぶちまけた牛乳を這い蹲ってぴちゃぴちゃ舐めることをきっかけにレスビアンの関係を結ぶ。年嵩の女、高瀬春奈には夫がいる。その夫、原田芳雄がふたりの関係に気づき始め、そこに巻き込まれて…みたいな展開。途中で、中島ゆたか演じる女性が高瀬に、「あなた、そのうちあの娘のこと持て余しそう」と半分忠言みたいに呟くのだが、まあ結果はそのようになる。原田芳雄が警察官でありながら、日曜画家をやっている。これはなかなかお洒落じゃないか。まあ、あんまり警察官て感じはしないのだが。それで原田と高瀬の夫婦は警察官舎に住んでいる。樋口が原田を、アンリ・ルソーの名を挙げて評するのだが、樋口が美大に通っていたことを知っているとこれは変にリアリティがある。ルソーは本業が税官吏だったんだよね。終盤の尋問劇はわたしの好みじゃなかった。

f:id:guangtailang:20210705082921p:plain冒頭の牛乳ぴちゃぴちゃの場面。あえて樋口の美麗さがわかりにくいやつ。髪が牛乳に浸るのもお構いなし。

f:id:guangtailang:20210705082825p:plain終盤、牛乳ぴちゃぴちゃを契機に始まった関係が終わったのち、回顧するように牛乳を床に垂らす樋口。この樋口も美麗ではあるが、もっとクローズアップで観た方がいいから、興味がおありならご自分でご覧なさい。

Mのリクエストで焼肉を食った際、彼女の梅酒ソーダ割りを飲むペースがわたしのハイボールよりだいぶ速かった。おいおい大丈夫かよと見ている間に彼女の顔が紅くなり、普段と違う雰囲気を纏い始めた。わたしがトングで肉を挟みながら急に饒舌が影を潜めた彼女を見ると、こっちを見つめている、というか凝視している。真っ赤な顔で。どぎまぎして目を逸らした。普段わたしはほとんど意識していないのだが、この時の彼女のまなざしはやっぱクォーターなんだよなと思わせる奥行きと瞳の強さ、吸い込まれるような妖艶があった。「そんな見つめる癖あったっけ?」とかろうじて言った。それに対して彼女の口から出た言葉は、「香港てこれからどうなっちゃうんだろうね」だった。