川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

何処へ

f:id:guangtailang:20210628133408j:image土曜日の夜。翌日にMと約束していたが、雌伏して時を待った日本代表と、相手に指名してくれたブリティッシュアイリッシュ・ライオンズのラグビーの試合の方が待ち遠しさにおいて勝ったというのは自分でもやや驚きだった。週の真ん中あたりからそうゆう気持ちになっていった。ただ、JSPORTSが三階ベッド横のテレビでしか見られず、Hさんに翌朝早く起きねばならぬ用事があった。午後10時半からJSPORTSを少し、「11時から試合が始まりますんで、そしたらテレビと電気消して下に行きます」と彼女に声をかけた。地上波でも放映する。

f:id:guangtailang:20210628133417j:image時間は少し遡り、土曜日の午後。仕事を上がったあと、自宅にいたHさんに北千住に行くけど一緒にくるかいと声をかけると行くとの返事。ターミナル駅に着き、いつからかの習慣でルミネの入口で一旦別れ、それぞれ目的の場所に向かう。僕は書店へ。痔の手術・入院のあいだ、長編小説を読もうと思っているのでそれの物色。けれど、もうここ何年の実感だが、この規模のリアル書店でさえたいした品揃えないじゃない。新刊ばかりが幅をきかせて、古典作品が蔑ろにされている。書店には書店の事情があろうが、僕はネットで購入するだけだ。

1時間後くらいにHさんと合流、珈琲店を回るがどこも外に列をつくっている。それでもなんとか一店に滑り込み、休憩。「今夜、ラグビーの試合があるので…」云々とこの時にも話した。彼女は黒糖絡みのメニューがなく、やや不満の様子。

f:id:guangtailang:20210628133431j:image錚々たるブリティッシュアイリッシュ・ライオンズに囲まれる松島幸太朗。右下のワイプに引退したダブルフェラーリのもういちにんも映っている。2019年のあの秋、この人たち、ほんと凄かったよな。2021年のゴールデンタイムにこの人たちが大男たちの間隙を切り裂き、ひたすら疾走する場面を編集し、流しつづけてもいいんですよ。まあ、そうゆうのはユーチューブでいくらでも見られるご時世なんですけれど。

f:id:guangtailang:20210628133440j:plainMについて竹を割ったような性格、と見ることは初めの頃からわりあいにたやすい。それで僕もサバサバ系女子の特徴などについて調べ、単純ながら、まさにこれじゃないかと膝を打ったものだ。しかし、今はもう少し異なる見方をしている。

実のところ、この人は他人を非常に「おもんぱかる」。なにせおもんぱかり過ぎるほどだ。私は私と割り切って振る舞うかのようでいて、たとえそう見えても、その決断に至るまでの道筋で非常におもんぱかっている。他人と自分がどのように繋がっているか、その密度や距離を僕などよりよほど丹念に考えている。そして忍耐強い。ゆえに、時にそれが「めんどくさい」という言葉としてあらわれることになる。

己を押し殺し、他人が発光するための手助けに甘んじてきた過去がこの人にはある。元来自ら発光する人間なのだと最近のこの人しか知らない僕には感じられるが、ずっとこの人は光が漏れぬよう、自らに遮光の布を被せて一歩退いてきたのかもしれない。話を聞く限り、両親はじめ周囲の環境がこの人をそうさせた部分も大きかったように思う。それが数年前に突如布をめくり上げて放り捨て、歩き始めた。どこに向かっているのかしかとは聞いてはいない。が、前に進んでいるのだ。その道中で僕らは出会った。僕はこの人の光彩に引き寄せられ、ぐんぐん近づいていった。うお座A型同士の鱗が。

f:id:guangtailang:20210628133451j:image日曜日の午後。僕のリクエストでベトナム料理を食う。酒類の提供も可能となり、サイゴンビールを所望。Mはマンゴーラッシー。ビールを少し飲ませると、顔を梅干しのように顰めてまずいと言う。38の天真爛漫。ことさらに共通点を見つけるわけじゃないが、HさんとMはビール(というか甘くない酒全般)を厭い、コーヒーにはミルクと砂糖をたっぷり入れる。頻繁に目にするその動作をどっちかがやるたび、もうひとりを思い出す。なにせ生まれてこのかた僕はブラックだ。パクチー(香菜)はどちらもまったく平気。辣さの強いものは苦手。

f:id:guangtailang:20210628133500j:image海外で武者修行といえば、松島選手ともういちにんは姫野和樹。彼がハイランダーズの一員としてハカを披露したのを見て、長年のラグビーファンの方が日本人選手もここまできたかと落涙したという話も漏れ聞くが、ブリティッシュアイリッシュ・ライオンズから初めてトライを奪った日本人は彼だった。そもそもひと昔前の日本代表ならブリティッシュアイリッシュ・ライオンズの対戦相手として声がかかるはずもなく、よしんば何かの間違いで対戦できたとして、3対82で敗れていただろうという予想もある。10対28。選手を入れ替えた後半の修正力は素晴らしく、肉弾戦に付き合わない早いパスワークなど見どころも多かったです。ありがとうございました。アイルランド戦も楽しみです。

ラグビーでほんとにそうと思えることは、たとえ50点差がついていようと、最後にビハインド側のチームが団結して意地でもぎ取ったワントライが観客を感動させる。これなんだな。