何本か川を渡りながら冬晴れの平野をつくばエクスプレスは疾走する。最寄駅から流山おおたかの森までシームレスの線路を滑っておよそ20分。先々週、先週と互いの体調不良で日延べしていた約束を果たす日。〈欧米の農場〉をテーマにした結婚式場併設のカフェでSとランチ。前回ヘロヘロで着いた駅に元気に到着。案内板の横に立って改札を眺めていると、174cmにベージュのウインドウペン柄ロングコートを纏い、黒のショートブーツを履いた彼女があらわれ、駆け足で寄ってくる。マスクで半分覆われた背ぇ高顔は席に座るまで見られない。それでもカフェに向かう道すがら、並んだSのやや上にある視線を意識しながら雑談する快感。おれはSにもMにも無論Hさんにも背ぇ高好きを公言しながら生きている。
時間は少し遡る。その夜おれは北千住の昭和大箱喫茶が何年か前閉店したあとに入ったカフェでナポリタンを注文していた。レイアウトは旧喫茶店のものを活かしているから広々。写真の通りだ。コーヒーを啜りながら想起していたのは……おれの体調が恢復し、今度はSの具合が悪くなった。彼女がリスケの連絡をしてきた夜、手違いでMに送るつもりの際どい画像をSに送ってしまった。ラインで相手のトークルームに入ってから送ればいいものを、仕事の時にやっている手順、アルバムから送ろうとして指が滑り、過ちを犯した。物件画像ちゃうのにから。さらに悪いことにはSのトークルームは送信取消ができない(無い)仕様だった。これには叩きのめされた。泡を食ったおれは20分ほど携帯を弄り回したのち、腹を決めた。事ここに至っては素直実直に当たるほかない。〈言い訳できないものを間違えて送ってしまった。体調不良の時に大変申し訳ありません〉。ウイスキーを舐めながら携帯の黒い画面を見つめていた。
ナポリタンを食べ終え、さらに大人のコーヒーゼリーというのをたのんだ。珍しくクラッシュされており岩のりにも似るが、ジェリーの苦味とアイスクリームの甜味の融合した久々にうまいCJを食った。しばらくしてSから返信が来た。〈大丈夫です~笑〉〈気にしないでください🌹 私はこういうセクシーなことできませんがご了承ください~笑〉。この短文を二度三度と目で追い、Sのイメージを反芻し、本心から言っているように思えた。貴女がさばけた人でよかった。
ランチのあと駅に戻り、ペデストリアンデッキで繋がった商業施設のカフェでSの持参したごきぶりポーカーをやった。道すがら、彼女にMのことを忌憚なく話すと、おもしろいことが起こった。「ああ、おねえさんなんですね。気が合いそう」。以前、MにSの人となりをざっと話したところ、Mは言ったものだ。「Sさんとは気が合いそうだわ」。このふたりをもし引き合わせたら… ふたりの会話している光景を見ておれはどんな顔するんだろう、できればまずは立ったまましばらく雑談してほしい、と場面を夢想して壮年はごきぶりポーカーをやりつつニヤニヤしてしまうのだった。