川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

シャーベット状

10日。降雪予報。午前中、職場から外を眺めていると霙が混じり始めた。積もりそうな気配はない。そうやっていちにち阿保のように外を見ていた。かと言えばそうでもなく、Hさんを成田まで迎えに行くのにクルマかデンシャかの選択を直前まで迷い、雪の状態とにらめっこしていたのだ。千葉方面は雨という予報もあったが、前日、慎重派の母親からラインのメッセージでクルマはやめて、場合によっては空港付近で一泊してきなさいというような話もあった。暗くなって相変わらず水分は多いのだが、シャーベット状に積もり始めた。それでクルマはやめることにした。

f:id:guangtailang:20220211153522j:image午後7時。ハルピンにも着て行った極寒地用のコートにモールスキンのズボーン、靴下二重履き(ハルピンでやっていた)、安藤製靴の堅牢革靴、厚手の手袋をして家を出る。雪は相変わらずベショベショしているが、たしかに積もり始めていた。日暮里駅でスカイライナーの時間をみると、30分後の出発で驚く。8時半の着陸だからと余裕をかまして事前に調べなかった自分が悪い。プラットフォームの待合室でミルクティを飲んでいるとHさんからもう到着したと連絡が入り、二度驚く。30分以上も早いやんけ。ただ、検査や諸々手続きで出てくるのに1時間はかかるだろう、そうなると9時第一ターミナル着でちょうどよいのだった。乗った車輛は僕いちにん。母親からデンシャは動いているのかとラインのメッセージが入る。こんなだと、ガラガラの車内を撮って送った。

f:id:guangtailang:20220211153537j:image結局、彼女が南ウィングの到着口に姿を見せたのは午後9時だった。みっつのスーツケースとバッグ、手提袋をカートに乗せ、紹興も寒いと向こうで買ったシャンパンゴールドの化繊コートを羽織り、紅のタートルネックセーターを着ていた。到着後の検査と手続きの煩雑さで疲れ切っていた。唇の下の上火(シャンフオ)は治ったのかと訊くと、マスクをずらして大丈夫だとみせる。スカイライナーの車内で話梅(ホワメイ・干し梅)をしゃぶりながら母親の乳がんのことを話した。彼女、驚く。あなたが向こうで孫と遊び、春節の一家団欒もあったから、母親の指示で今まで黙っていた。祖母が亡くなったのと同じタイミングできつい抗がん剤治療を始めている。Hさんは遠い目をしながら、中国の親族でも実の妹をはじめ、数人が乳がんをやっていると嘆息した。あとは互いに無言の時間が長かった。

日暮里駅でタクシーを拾い、午後11時帰宅。クルマからスーツケースを降ろし、シャーベット状の雪上に車輪を転がすとシャリシャリと小気味よい音がして、その時ふたりして笑った。

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