川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

サンマウ

f:id:guangtailang:20241007162952j:imageマンツーマンで中国語を習っていた老師が体調不良を理由に辞め、新しい老師になってひと月近く経つ。テキストは前老師とやっていたビジネス向けのやつを放擲し、今は『漢語口語速成 中級篇(第二版)』というのをやっている。メルカリで買った。この手の本土で出版されたテキストは実店舗なら神保町の東方書店や内山書店、上野の亜東書店に代表される中国書籍専門店で買うしかなく、でなければネット通販、フリマアプリに頼ることになる。ちなみに先述したみっつの書店はどこもネット通販がある。

商務用語、ビジネス向けのテキストの文章が退屈で仕方なかったのだが、今度の老師は作家の三毛(サンマウ)が好きな文学派だ。「我来不及认真的年轻,待明白过来时,只能选择认真的老去」という三毛の言葉がまずもって激励のように送られてきた。本気で若くいるのには間に合わなかった、それがわかったら本気で齢を重ねるしかなかった。そんな意味だろうか。三毛といえば、それこそ東方書店だったか、『サハラの歳月』という分厚い翻訳本を目にしたことがあり、「サンマウは読んでみたい気もしますが、もっぱら女性に人気だと聞いたので… 男性が読むとどうですか?」と問うと、すぐにラインで「可以说三毛的读者群体是女性。撒哈拉的故事被称为神作。推荐值很高。您可以去阅读一下(サンマウの愛読者は女性ですね。『サハラの歳月』は傑作と呼ばれているので、かなりオススメ。 読んでみてください」と返ってきた。それで『撒哈拉的故事』(南海出版公司)をまたもメルカリで買う仕儀となった。

一読、サンマウの文章は決してむつかしくない。『サハラの歳月』(石風社)が随筆(紀行文)ということもあろうが、それにつけても、以前に書いたかどうか、魔が差して買った張愛玲の原著は出だしの一頁からまったく読めず、裸でシャワーを浴びながら涙をごまかした、あれに比べれば。老師が先述のテキストとサンマウの文を交互に授業でやっていきましょうと言うから、サンマウと恋人のホセが西サハラ(当時スペイン領)で挙行した「結婚記」を読んだのだが、愉快な話だった。なにせ西サハラだよ。よくぞそんな場所に住もうと思ったものだとまず思う。結婚記念にホセがサンマウに送ったのが美しいかたちを残したままのラクダの頭蓋骨。これを彼女は喜ぶ。1943年生まれというから僕の父親よりも年上なのだが、いつ読んでも新しいだろう、時代に拘束されていないヴィヴィッドな感覚の持ち主。

f:id:guangtailang:20241007225244j:image近頃、閻連科の『父を想う』(河出書房新社)という本を読んだのだが、原題が《我与父辈》、私と父の世代と言うべきもので、中国現代史の苦しい時間を生き抜いてきた父親、伯父と叔父の、閻連科からみた彼らの人生が描かれている。父親は58歳で死んでしまうので、閻連科の筆は比較的長生きをした伯父と叔父に対してより力強く、哀惜的に振るわれている印象がある。そしてこれは徹頭徹尾、中国農民の話である。河南省西北部、黄土高原に生きた農民たちの話。

老師と雑談していて、話頭が墓地に及んだ。日本だと墓地は民家に接して街中によくあるが、中国ではそれはあり得ないのですよね。墓地は必ず人里離れた場所にある。なぜですか? この問いは妻のHさんにも発したことがある。彼女の答えは、人は死ねば〈鬼〉になる。この鬼はおそろしいものだ。生きている人に祟ったりする。だから、人の営みのそばにいるのはおかしい。老師の答えも似たようなものだった。鬼と人が接触ないし交差するような地点があると、人が鬼に連れていかれてしまう。『父を想う』の中にもそういうことを書いた箇所がある。伯父たちが防風林のように立ちふさがって、突風のようにやってくる鬼から子どもたちを護っていたが、年老い、ついに力尽き、子どもが攫われることになった。

f:id:guangtailang:20241010171253j:imagef:id:guangtailang:20241011130430j:image『世界文化シリーズ6 中国文化55のキーワード』(ミネルヴァ書房)より。

f:id:guangtailang:20241007162949j:imageこれは山西省ジャ・ジャンクー(贾樟柯)『罪の手ざわり』より。新しく中国語サークルの会員になった女性で、20数年前、太原に留学していた人がいる。授業料が安かったらしいが、珍しい。平遥は勿論行ったという。個人的な思い出としては、中国語学習初期の頃にマンツーマンで習っていた老師に太原出身の人がいた。彼女は身長175センチのショートカットで、『攻殻機動隊』が好きだった。僕が誘導したのだが、授業そっちのけでアニメの話ばかりしていた気がする(日本語で)。

【ツイ老师とやる造句】(2024.10.5)

这片药的疗效根据每个人的体质不同的。

この薬の治療効果は人によって違います。

 

那部电影我大致看过一次,所以没有什么印象。

あの映画はざっと一度観たきりだ。だからなんの印象もないよ。

 

你小心,他那样的说法肯定别有用心。

気をつけて。彼のあのような言い方は間違いなく下心があるから。

 

她的籍贯是吉林省。她父亲是朝鲜族。

彼女の本籍は吉林省で、父親は朝鮮族です。

 

怪不得他不敢养这种类型的狗,原来它凶得不得了。

どうりで彼はこの犬種を飼いたがらないわけだ。凶暴でどうしようもない。

 

我们公司没有其他的阴阳合同。我们的做法是小葱拌豆腐。

我が社には二重契約などありません。我々のやり方になんのいかがわしいところもありません。