川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

やり過ごす

f:id:guangtailang:20210530182652j:image両親とHさん、犬と一緒に大洗へ出かける。ここのところ母親の身体の調子が良く、クルマに比較的長時間乗っていられるとのことで。別にむつかしいことじゃないんだが、あと何回この組合わせで遠出できるのか。まあそれほど多くはないのかもしれない。そうゆうことを考える。オリンピックも強行する仕儀で、コロナがまたどう転ぶか、Hさんの8月帰国のチケットはすでに取ってある。

常磐道は快適で、天気は晴れ、今日の母親は機嫌良く、やけに饒舌だった。自分がまだ30代前半だった頃に私と弟、それに友人のママ、その息子ふたり、その娘と一緒に大洗に旅行した思い出を語り、止まらない。私とその息子の長男が同級生で、弟と次男、4人が同じスイミングスクールに通っていた。わんぱく盛りの小さい獣らを連れて、常磐線に乗ってトコトコ行き、水戸駅かどこかで路線バスに乗り換えたのだという。「あんた憶えてないの?」と言われても、そのメンバーで電車やバスに乗っている光景は少しも浮かんでこない。泊まった旅館が良かったので、2回目も同じところに泊まったというが、そのメンバーで2回行った記憶もない。ただ、大洗磯前神社の境内にある海洋博物館の前だかで集合写真を撮ったこと。あと、旅館の部屋にエロ本が置いてあり(いや、これは獣の一匹がどこかから持ってきたのだろう)、私と長男がこっそり見て、オーラルセックスというものに衝撃を受けたことは憶えている。まだ小学校中学年だったろう。スマホという文明の利器を駆使しつつ、記憶の糸をたぐり、ついにその旅館が現存することを突き止めた母親は、私の予約したランチの時間まで余裕があるのをいいことに、その旅館を見に行きたいと言い始めた。トラットリアからごく近距離のようなのでみんな賛同し(Hさんはあまり意味がわからなかったろうが)、その場所へ向かう。すぐに見つかった。母親はあまりそうゆうことをしない人だと思うのだが、クルマを降りると外観の写真を何枚も撮っていた。車内に戻ると、「Iさんに見せたら、昔の方が素朴で良かったって言うと思うわ」と、当時一緒に旅行したママの名を出した。40年近く経った現在でも交際はつづいている。現在は建て直され、建て増しされたのだろう、取って付けたような南欧風の建物が目を引いた。しかし、こうゆう家族経営のような旅館が連綿とつづいているのが凄いと思う。「着いたら、今のウェルカムドリンクじゃないけど、お茶と自分のところで育てたトウモロコシがひとり1本出てね…」と母親は実に楽しそうだ。

f:id:guangtailang:20210530182701j:image涙ぐましいブルーの空に白の旗が映える。犬連れ客はマリーナを臨むテラス席になるのだが、予約の際、犬用敷物の持参をアドバイスされた通り陽射しが強く、食事のあいだに人間も首筋や腕が焼けた。

f:id:guangtailang:20210530182713j:image父親はピッツァの指で持つ部分の比較的厚い生地のところを食べ残すほど歯茎が劣化しているようだ。昔嫌っていたハンバーグを齢70を過ぎて食べるようになった姿を見た時以来の衝撃。

f:id:guangtailang:20210530182724j:image帰りの常磐道を東京に近づくと、ぱらっぱらっと大粒の雨がフロントグラスを叩いたかと思えば、すぐにバケツをひっくり返したような凄まじい勢いになった。「こうゆう雨が寧波(ニンポー)の高速でもあった」とHさんが言う。まさしくその通り。あれはもっと酷かったかもしれない。家の附近に着いても一向に衰える気配がないので、こりゃ荷物の積み下ろしもできないな。少しやり過ごそうと、30分までは無料というスポーツセンターの駐車場で雨が弱まるのを待つ。午後5時45分。この組合せで雨をやり過ごしながら各自ぼんやりと車外を眺めるという機会があと何回あるのか。