川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ブルーグレイ

f:id:guangtailang:20210601223043j:image風と共に去りぬ』は第4巻の339頁まで読んだ。夕食後、日課のウォーキング。時刻は午後7時過ぎだったが、まだ明るさが残っている。これがあと20分もすれば暗くなる。といって都会の空だから暗闇になどならず、ブルーグレイに薄い雲がたなびいている。ただ、ウレタン敷きのジョギングコースは一部の区間で外灯が土手の下にあり、コースを走る、または歩く人の顔が判別できないほどには暗い。その暗さの中で数日前、こんなことがあった。Hさんが決まって土手から水際のプロムナードまで下りていく途中のポールに脚を乗せ、ストレッチをやる場所がある。その日そこでは3人の大人が涼んでいたので、私たちは少しずれてやることにした。私がさらに離れて川向こうの高速道路を眺めていると、Hさんが中国語で話す声が聞こえてきた。近寄っていくと3人の中のひとりの女性がこちらに日本語で挨拶する。さっきは暗くて顔もわからず素通りしてしまったが、ややしゃがれた声には聞き覚えがあった。このブログでも何度か書いた家の近所の喫茶店(カフェではない)のママだった。もう数年店には行っていないが、彼女は数日前に会ったような気安さで話しかけてくる。新しく家を建てたが、自分たちの中に自動車免許を持つ者がいないので、車庫が空いている。息子か誰かが免許を取得してクルマを買うまで賃貸に回したい。可能か。それは勿論可能です。そこから新居の住所、相場はいくら等しばらくお喋りした。ママの日本語はこの国で生活していくに十分だ。あとのふたり─中年の男とおばあさん─は誰だかよくわからないが、ママの身内だろう。中年男にはママが不在の時に1、2度ホットコーヒーを出してもらったような気がするが、薄闇にマスクでは判然としない。

翌日のウォーキングで川沿いに行く前、ママに教わった住所地を回った。たしかに新築の黒い瀟洒な建物があり、脇に駐車スペースがあった。今は数台の自転車が置かれている。インターホンの上に、おそらく姓名の日本語読みであろうアルファベット3文字が金属で穿たれていた。2階の大きな窓が開け放たれ、ママの愉快そうなしゃがれ声が聞こえる。見上げながらHさんが、「まだ引っ越して2週間も経っていないのよ」と呟いた。彼女とママは微信で繋がっている。実は昼に事務所でこの土地の登記簿謄本を取得した(これなど個人情報の最たるものだと思うのだが、不動産の円滑な取引や権利関係を一般に公開する目的で、法務局に行くか登記情報提供サービスを利用すれば、誰でも請求・取得・閲覧できる)。その内容とも一致した。これは私の勝手な想像だが、ママの息子に大学院生がいたと思うから、バイリンガルの彼が動いて親族間の意見調整等いろいろ取りまとめた気がする。