ゴルゴンゾーラのチーズケーキとカフェラテが運ばれてくるまでのあいだ、目の前の海を眺めていた。ガラス越しだと穏やかそう。
席が空くのを店内で待つことができないという謎の規則(感染防止対策の一環?)により、携帯の番号を知らせ、付近の灯台のある公園で時間をつぶしていたが、怖いくらいに風が強く、人気もなかった。雨は降っていない。Hさんが寒いから戻ろうと後ろから叫ぶ。店の前まで来たとき、ちょうど携帯が鳴った。
将来、自分が寝たきりになったと想像してみる。ベッドから見飽きた天井の柄を見つめながら、老人のおれは仕事の事柄なんか思い出さない気がする。たとえばめざましく思い出すのは今日のようないち日ではなかろうか。
当日の朝まで雨の予報とにらめっこしていた。常磐道を北上していると前方に黒ずんだ雲が増え始め、土浦あたりでぽつぽつきた。が、すぐにやみ、小美玉に着くと濡れることなくブルーベリー狩りを楽しめた。陽射しが出て、紫のストライプシャツを腕まくりした。Hさんもこの果実に寄せた色のノースリーブワンピースを着ている。筑波山はかすんでいる。その後、海の方で昼食と、また常磐道に上る。ワイパーをしきりに動かすような雨は降らない。
下の海岸でさっきまでウィンドサーフィンの準備をしていたおじさんがするすると沖に出ていくのをぼんやり眺めていると、ケーキと飲み物が同時に運ばれてきた。これぐらいの風の日の方が醍醐味があるのだろう。
海の見えるカフェに立ち寄ったのは、灯台のある公園のすぐそばだからというのもあるが、昼飯に海鮮を食べて口の中に少し腥さが残っていたということもある。メヒカリの唐揚げはHさんの好物だ。濃厚なドルチェやコーヒーによりそれは消え去った。
ぷりっと張った実。ブルーベリー輝く。