川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

職業柄やや荒れた、それでいてしなやかな指先

f:id:guangtailang:20210516215421j:image上野駅の公園口が新しくなったのはなんとなく知っていたが、コロナ以降そっち方面に行かなくなったので、この日初めて来た。業界青年会のバス旅行では写真右の駐車スペースをよく利用したものだったが。

札駅舎が鶯谷寄りに移設され、文化会館と西洋美術館のあいだに幅の広い歩行者専用道路が敷かれたので、自動車道路はロータリー化によって通り抜けができなくなっている。初夏の陽気で汗ばんできたおれは来た道を戻り公園口から構内に入ると、エキュートのメルヘンでスモークサーモンとマンゴー生クリームのサンドイッチを買った。Mが壁のメルヘンの文字がメタルでいいねと言ったのを思い出す。色もいい。

時間は少し遡る。土曜日の昼過ぎ。北千住のいきつけの美容院に行った。エレベーターを降りた瞬間、すでに数人の客がおり、タイミングが悪かったかと思ったが、なんと11人待ちで、おれの番はおよそ2時間後になるという。パッツン黒髪の女性に、「え、そんなに待つの?!」とおおげさに驚いてみせ、「じゃ、今日はやめます」と踵を返した。この店は事前予約をやっておらず、あくまで受付けた順番というシステムだ。このあと、上野駅公園口へ移動した。

日曜日。曇天。10時の開店には間に合わなかったが、半に美容院に着いた。昨日のパッツン黒髪の女性が歩み寄ってきて、「昨日はすみませんでした。今日も来ていただいてありがとうございます。ちょっと待ち時間確認してきますね」と奥に向かったが、見るからにすぐいけそうな雰囲気だとわかった。窓際の椅子に座ると、切れ長の目で真ん中から分けた髪が黒から途中黄色に変わっている女性が傍らに立ち、「本日担当させていただきます…」と自己紹介した。おれは話ができそうな美容師だとわりかし会話を楽しむ人間だ。そして、話頭をとらえてその人の出身地を訊く。八戸だと彼女は言った。一度行ったことがあったから、台風と一緒に行動するはめになり、種差海岸が見られなかった話をした。どんこのなめろうは出なかったし、出さなかった。実家の両親は東京から帰ってくるなと言っているらしい。東北の感覚でいうと、東京から近県に行くのが随分近くていいと言う。「八戸から仙台なんて4時間かかりますからね」「それじゃ、ここから静岡の浜松行くのと変わらないくらいかな」と適当な返しをした。そのあいだも彼女の職業柄やや荒れた、それでいてしなやかな指先はおれの薄毛を刈るべく動きつづけていた。ガラス窓に水滴が次々当たり、意外に早く降ってきた。このあと渋谷でMと会った。直前に右耳に開けたピアスの穴が痛いと言う。充血している。今調べたが、アンテナヘリックスという箇所らしい。何にでも言葉がある。