川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

過ち

f:id:guangtailang:20211227150050j:imageやはりこれを書かなければ年は越せないと思うから書く。24日の夜、Mと会った。上野の千里香に事前連絡したのだが、金土日の2名の予約は受け付けていないという服務員の返答で、僕は定刻より早めに店に行って並ぼうとした。が、クソみたいな仕事が入り、結局午後6時15分くらいに着いた。すると意外やするりと席に案内されるではないか。この上野本店では珍しい。いつもより日本人客の割合が高いような気がする。奥ではサンタクロースの帽子をかむった女性ふたりがはしゃいでいる。マッコリを2杯飲んでいるうちに山手線の混雑で遅れていたMもあらわれた。そこから例によって羊肉串、拌干豆腐、鍋包肉。僕はハイボールに移行して5杯ほど飲み、彼女はココナッツ汁の他に1杯だけカシスオレンジをたのんだ。ボリュームのある鍋包肉の残りはこれまたいつものように打包。店を出たところでふたりして変顔の写真を撮った。相変わらずMの振り切った変顔には敵わない。そこからシャッターの下りたアメ横を歩き、昭和通りでタクシーをつかまえ、浅草のビューホテルへ。車内で手をつなごうと思ったが、彼女はそれが嫌いだからやめた。僕も実のところ好きじゃない。ただ、酔った頭で本能的に萌しただけだ。ホテルの17階の部屋からは浅草寺とそのすぐ背後に緑色に発光するスカイツリーが眺められた。室内の照明を消してMが写真を撮る。浅草に育った人間がここに泊まるのは初めてだった。ベッドに仰臥したMは部屋の柔和な和の内装を褒めた。彼女は女性特有部位に疾患を抱えている上、さらにシェーグレン症候群を発症している。にもかかわらず、酩酊と昂奮に支配されていた僕は挿してしまった。ずいといったわけじゃなく、慎重に、声をかけながらだったが行為自体は同じことだ。勿論、彼女も同意していた。翌日に年内いっぱいで辞める横浜の病院勤務があるMは終電で帰ると言った。明日の始発はと提案したが、やめとくという返事。じゃあ、おれひとりで朝飯食べることになるな。そうだね。身支度を整え、窓際に寄った彼女が雨降ってると呟いた。僕も寄っていき、でも傘差している人いないな。光の加減で濡れて見えるのかなどと適当なことを言った。Mは打包した鍋包肉のビニルをぶら下げて帰っていった。翌朝、26階のスカイラウンジで朝食を摂っていた僕は、目の前の大ガラスを左から右に虚空を駆けてゆく鳥を眺めながらMに、一緒に朝飯食いたかったぜとラインを送った。おいしそー。チェックアウトし、ぽつぽつ雨の落ちてくる中を徒歩で帰宅した。その20分後にはネクタイだけ変え出社。昼頃に彼女からラインがあり、結構出血していました。やっぱりあんまりよくなかったようです。その短文を二度三度と目で追った。過ちを犯してしまったのだと思った。Mの表現法として、たいしたことないように書くのが通常だが、〈結構出血〉とするのだから相当なものなのだと思った。躰を気遣っているのは無論フリじゃない。心の底からのものだし、それは彼女にも届いているはずだが、よりにもよってイヴの晩にその躰を傷つけてしまった。今このホテルの中で何人のカップルがやってるんだろうね。それはおれも考えてた。などという軽口が思い出されたが、今、僕の心はどんどん冷却し、己の愚かさ、Mへの申し訳なさが募っていった。その日から数日、彼女の出血の具合をラインで訊いた。基本仕事以外で僕は電話を使わない。25日の夜は寝付けないほどにあれこれ考えた。2月26日に中目黒で出会って以来のさまざまな記憶。今年最後の逢瀬でこうした事態を引き起こすとは。徐々に出血は少なくなっているとは言う。よかった。ただ、来年早々に会えれば、面と向かって過ちを謝罪したい。文面の彼女は大丈夫ですよと笑うが、年を跨いでこれだけはやらないと僕の気が済まない。