【以下、ネタバレあり。尚、役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】
『颱風とざくろ』3、4話を観る。この2話の監督は「ロマンポルノの職人」西村昭五郎。先に言ってしまうと、緒形は4話の後半、谷川岳で転落死する。松原が大学生の男らのひとりに同伴喫茶に連れ込まれ、男を引っ剝がして雑踏を駆け出すと信号待ちにつかまる。次の瞬間、向かいのビルの電光掲示板に緒形の死を知らせるニュース文字が流れるのだ。急展開でドラマとしておもしろいが、西村の演出は全般に平均的というか、藤田ほど遊びがなく、やはり職人的に手堅くまとめている感じ。
海辺の別荘にやってきた緒形と松原。ボートの上で緒形は吉田との出会い、その後の発展について語り始める。学生運動を通じて深まっていった仲なのだと。松原はそれを必死に受け止めようとする。そして、ふたりは森進一の「花と蝶」(1968)を唱う。
別荘にいる緒形に電話が入り、大学紛争が激しさを増し、研究室に保管されている教授のデータが危ういという。火急、緒形は東京に戻り、同僚たちと話し合う。しかし意見の相違が際立つだけで、同僚は業を煮やして席を立つ。それに追い縋る緒形。1969年の喫茶店。現在ではこの手の喫茶店が昭和レトロとか純喫茶と持て囃されている。
大学構内に機動隊が突入し、学生らが検挙される。その中に吉田もいた。緒形は彼女がアパートに帰っていないことを知り、ほうぼう当たると本郷警察署に赴く。吉田は能面のような無表情で面会室の椅子に座っている。一言も発さない。
緒形が差し入れのマシュマロの袋を開けると、中身が机の上に転がり出る。それにじっと視線を注ぐ吉田。これは良い場面。
緒形は松原を居酒屋に呼び出し、約束を破って吉田に会ったと告げる。許す、と松原。そんなに簡単に許すもんじゃないと緒形。後ろの席で酔客らが学生運動について過激な冗談を飛ばし、留飲を下げている。それが耳に入る緒形は苦虫を潰したような顔で酒を呷るが、ついに爆発して戸外で取っ組み合いになり、殴り倒される。その様子を陰で凝視する松原。
第4話。緒形は心機一転するため、高校時代の友人と谷川岳に登ることにする。準備をしていると吉田から電話が来る。喫茶店で会うと、緒形が彼女の名前を明かしたので吉田の父親に連絡が行き、彼が高知から飛んできた。父親のことを想って誓約書に判を押した。だから、釈放されたのだという。そして、自分は故郷(くに)に帰るかも知れないとつづける。緒形はその方がいいかもしれないと応じる。すると、吉田が緒形をじっと見据えながら、どうして自分が故郷に帰るといいのかと詰問する。「だって、東京は万事ゴタゴタしているし…」「おれだって東京がいやになったし…」などと緒形が煮え切らない答えをしていると、「もういい!」と会話を切り上げ、「あぁ、いや」とそっぽを向いて嘆息する。DVD付属の解説書の言葉を借りれば、吉田は「…青春をかけた学生運動に挫折し、恋にも破れて東京を去ろうとしていた」。1969年の喫茶店。
ところが、みなかみに向かう夜行列車の席に吉田の姿があるのだ。向かいに座る友人が眠ると、緒形の肩にしなだれる。かといって彼女はみなかみで一緒に降りず、ずっと乗っていくのだと言う。朝になったら海が見えるかな。日本海見たいなあ。だって、生まれてからずっと太平洋だったでしょ。
松原は友人の妻、中村玉緒と親しくなり、おしゃべりしている。玉緒の不倫亭主の扱い方講座。子供がおしっこに行きたがっている。玉緒は30歳くらい。
松原は谷川岳に駆け付け、緒形の遺体を確認する。父親の河野も同じ列車に乗り込んでいた。その夜、彼女は父親と枕を並べる。父親が松原も幼い時に遊んだ西伊豆の黄金崎に土地を買おうと思っているが、どうだみんなで見に行かないかと誘い気を紛らわせようとするが、人形のように虚空を見つめる松原は「お父さん、ごめんなさい。ほっといて寝て」と言い、反対を向いてむせび泣く。翌日、遺体は荼毘に付された。