川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

壮年の衰え

f:id:guangtailang:20220424174543j:image注文する人が少ないのか、他のスイーツ系カップがいくつも置いてあるのにこれは1個しか準備されていない。売れた状態じゃないように思う。

ぽつねんと在る。そういうものをたのんでしまうわたしがいます。

トマトは野菜か果物かについてはとりあえず措くとして、元来トマトジュースは好物。酒場でレッドアイを愛飲していた時代もある。液体に変わった1杯500円は爽やかな薄いピンク色で、血液のようなどろっと濃い色をしていない。ジューサーで破砕するとこの色だろう。ストローで飲むのは少し味気ない。といって、口をつけて飲んでみずみずしさはあるが、感心するほどじゃなかった。

f:id:guangtailang:20220424174600j:imageいちにち戻る。土曜日午後。お母さんが漏らしてしまったので少し遅れますとMからメッセージ。先に店に入っていてくれというから、もう3度ほど待ち合わせしているバインミーを売りにしたベトナム料理店でビーフンを食う。彼女の母親は関節リュウマチを患っており車椅子生活なのだ。

Mの子宮頸がんは進行していた。というか、まだがんとまでは呼べないが、組織診の結果が中等度異形成らしく、もうしばらく様子をみて、そこから入院・手術に向かう可能性もあるという。ヒトパピローマウイルスの型がよくない4種が含まれているというのは以前から聞いていた。「顔つきが悪いというやつか…」とユーチューブで得た表現で呟くと、頷く。

f:id:guangtailang:20220424174611j:imageまた例の男の話になった。ラインブロックと着信拒否をした彼女に連絡を取る術がなくなった男は彼女のよく泊まるホテルで待ち伏せしていたという。飲食店の経営をしているが、そこを早引けして。とにかく話し合おう。それでやむなく部屋に行き、あなたに対しての信頼感がなくなった、キモイと伝えた。「きみのやり方はほんとにガイジンだねって言われたんだけど、そうかな?」「いいや全然。そんなことは関係ないだろう」。しばらく聞いていて、思わずわたしの唇が歪み、男に対する蔑みの笑いが漏れた。己でそれがわかったから、これはやっちゃいかんぞと即座に反省した。ただその上でも、彼女の処置の仕方に「おれの考えからすれば中途半端なやり方」とかなりキツイ言い方をしてしまった。すべてあくまで伝聞で、きゃつの実在を知らない。いわんや己は部外者なのにと思う。ココナッツコーヒーを舐めて少し頭を冷やし、「なんでこんな風に腹が立つのかというと、この人が」と言って両掌でMを指し示す。「コケにされているということに対してなんだと思うわ」。彼女は両腕で頬杖をついて、顔の半分を覆った。

f:id:guangtailang:20220424174621j:image日曜日午前。それほど乗り気じゃなかったが、まあなんだかんだいってその出会いからHさんが世話になっているモモさんを加えたさんにんで日高市のサイボクハムに行く。車中での日本人の配偶者罵倒1時間コースはやめさせてくださいと、Hさんに釘を刺して。

昼飯を食って、彼女らは併設の温泉に入る。わたしは入らず、敷地の周辺を散歩する。雨がぱらついているが、傘を差すほどじゃない。変哲もないあぜ道をゆく。このあいだも昨日のMとの会話を反芻している己に気づく。彼女の口に上るさまざまな人物。たいていの人には好感を抱き、ただ伝聞だけで蛇蝎のごとく嫌っているのはきゃつだけだなと思い、思わず笑ってしまう。考えを進めてみるに、Mのことは当然好きだが、わたしが彼女のここはいかがなものかと感じている部分にもっとも共鳴し、且つ近くにいる人物がきゃつだからかも知れないと思った。これは嫉妬なのかなと考え、また笑いが出てしまう。いずれにしろ、もうほとんど終わりかけている話だ。

翻って、わたしだって他人からこいつのここはいかがなものかとそれぞれに思われ、またそこに共鳴する人もいるのかななどと考えながら、来た道を引き返した。

f:id:guangtailang:20220424174658j:imageまだふたりは温泉から出てこない。抹茶のソフトクリームを舐めながら立派な幹と葉ぶりの樹木(表に回ってみると札に白樫とあった)の脇のベンチで雨を避けていると、こちらから垂直に置いてある前方のベンチにどんと少女が腰かけた。長い髪の一部が紫がかっている。しきりに誰かと敬語で通話しているが、マスクでくぐもっているし内容までは聞こえてこない。まあ聞き耳を立てている壮年というのはキモイ。ふたりがいるこの空間はフリスビーができるくらいの広さがあるのだが、そこに壮年と少女が微妙な距離で30分以上一緒にいた。ただそれだけ。