川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

桃は甘く

f:id:guangtailang:20210724205427j:image退院した。連休明けで外来が混雑しているらしく、先生の診察(と退院後の指南)がだいぶ後ろになった。昼飯の前に帰るつもりが、しっかり食った。指南の際、9名程がラウンジに集まったのだが、わたしともうひとり以外は女性だった。比較的若い人が多く、彼女たちも同じパジャマを着用し、基本的には同じ苦しみを味わっているのか、それで今日退院かと思うと奇妙な連帯感が湧いた。ばあさんだけはなぜか私服に草履だった。尻から出血して汚すから、いくらでも替えのあるアメニティを皆着ているのだが。

10日間病室の空調に慣れて、外に出るとクラクラするかと思ったが、もわーとした空気が纏わりつくだけで、今日は暑さがそれほどじゃないのかもしれない。Zパッドのポジションがズレているのを感じたが、ライナーの駅でズボーンの尻に手を突っ込むなどおいそれとはできない。トイレで修正したが、パッドに血がべっとりついていた。ズボーンにまで浸潤すると大変。強力ポステリザンを新パッドに塗って取り替える。これは手術方式から一週間程度ではまったく正常なことなのだ。 

日暮里駅までHさんに迎えに来てもらった。見たことないノースリーブのワンピースを着ている。彼女の歩くペースに到底ついていけない。何か食べたい果物はあるか? というから桃と答えた。それで彼女はさっさっと歩き、スーパーに入っていった。買い物を待っているあいだ、わたしは通りの反対側に立っていた。自由を感じた。このままHさんを追いかけて店に入ってもいいし、こうしてぼんやり待ってもいいし、Zパッドを早く取り替えたいからとラインし、先に帰宅してもいい。信号待ちの彼女に桃とあとアメリカンチェリーもたのむよー!と叫んだっていい。何を思ったか通りがかったバスに乗ってそのまま旅に出てもいい。最後のやつはそんなもん解離性遁走かよとなるから、ともあれ、実行するか否かは別としてそうゆう選択の可能性がひらかれている。病院にいるあいだは、当たり前だが己の選択の可能性が限りなく狭められていたのでね。与えられたスケジュールと受動的選択の中で管理されるしかない。

桃は甘く、貪った。体重は結局77kg台まで減っていた。