川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

追憶のボーイング

f:id:guangtailang:20210328174814j:imagef:id:guangtailang:20210328174824j:imagef:id:guangtailang:20210328225805j:image春は天気が安定せんですなあ。その点、冬は安定していたですよ。あんまり寒さが厳しいのはあれだけども、暖冬ならばね、空気が澄んでて景色が遠くまで見渡せるとか、その他いいことあります。

なんか突然脈絡もなく昔の記憶の断片がめざましく浮上してくることってありませんか。皆さんもあると思うんですよ。あれってどうゆう脳の機制なんですかね。僕、土曜日に日比谷線に乗っていたんですよ。で、座席の端に座ってツイッターの蹠画像見ていたんです。そしたら急に、もう十数年前だと思うんだけど、大学時代の友人と3人でカラオケに行った時にIが隣りでややおどけて言った「このボーイングが公団の屋根の上って俺の原風景なんすよ」って言葉が彼の声色とともによみがえってきたんです。すごくリアルに。

Iの言ったのが誰の楽曲か、知っている人もいらっしゃると思いますが、キリンジの「エイリアンズ」です。歌詞の出だしを以下に引用しますと、

遥か空に旅客機 音もなく

公団の屋根の上 どこへ行く

誰かの不機嫌も 寝静まる夜さ
バイパスの澄んだ空気と 僕の町

旅客機をボーイングと発話するんですね。Iは当時蒲田に住んでいて、南六郷にあるペイント工場まで通勤していた。蒲田駅前のロータリーから出る工場労働者のためのバスに乗り込んで。空港が近いし、そりゃ旅客機が飛んでいるのを見るだろうと思ったが、これは彼が社会人になってからのことだから原風景とはちょっと言い難い。しかし考えてみればIはもともと川崎の出身である。「遥か空に旅客機 音もなく」見えるということは離陸してすぐじゃなく、しばらく経って機体がある程度の高度に達してからのことである。「公団の屋根の上」たってすれすれを飛ぶわけもなく、かなり上空を飛んでいるはず。だから、むしろ空港が近過ぎては違うのだ。彼の人生の大半で見ていたのは川崎時代のそれだった。Iと出会ったのが八王子の僻地の大学だったのでそっちか繁華街や映画館での思い出ばかりで、彼の育った環境をあらためて想像してみたのだ。

Iは今、三鷹に住んでいる。そして会社は変わっていないのだが、なんと柏まで通勤している。社内事情でそっちのペイント工場に異動になったのだ。ドアトゥドアで片道2時間じゃきかないと言っていた。しかし彼はあんまり苦にしていない。三鷹は彼の奥さんの地元である。彼女は看護師だ。実はこの女性とはIと僕と同時に知り合っている。最初街コンで出会った。古い話だ。子供がふたりいる。Iはかなり珍しいデザインのタトゥーを大胸筋に刻みつけている。そういえばそれも飛行機だ。今の生活の中で遥か空に旅客機は見えるのかな。