『無宿(やどなし)』(1974・監督 斉藤耕一〔斎ではなく斉になっている〕)をDVDで。昭和12年に時代設定されている。西暦でいえば1937年で日中戦争の始まる年だ。劇中にも軍隊の影が少しだけ出てくる。調べてみると『冒険者たち』(1967・監督 ロベール・アンリコ)を換骨奪胎しているそうだ。このフランス映画は高校時代の友人に勧められ観た覚えがあるが、私はあまりぴんとこなかった。ただ、海の明るさは脳裡に残っていて、『無宿』にも同じような海の明るさがあると思った。
高倉健と勝新太郎が日本の映画界で一世を風靡した俳優であることを勿論知らないわけじゃないのだが、実のところ私は彼らの映画をほとんど観ていない。それひとつとっても私の映画遍歴の偏りがわかる。だから、この映画がふたりの唯一の共演作だといわれてもそうなんだという感想しか出てこない。ただ、梶芽衣子さんの美麗さに脳巓を小突かれた。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】
女郎の梶芽衣子を足抜けさせた高倉健。もうこの時点から梶芽衣子がきれいで、そればかり目がいってしまう。斎藤耕一は女性を美しく撮る才にも長けている。
梶芽衣子はこの時20代後半で演じている。
飯を口からこぼしながら話に没頭する勝新太郎。
黒いクルマ─フォルクスワーゲン?に多人数で乗り込むヤクザ。
自分の宝探しの計画に潜水夫の経験がある高倉を引き込もうとあれこれ画策する勝。しかし高倉には復讐の目的があり、取り合わない。どころか高倉の不興を買い、勝は殴り倒される。寡黙と饒舌、長身とずんぐり、着流しと洋装など対照的なふたり。
笑顔を向ける梶。チャーミングこの上ない。
これは現在の京丹後市丹後町間人(たいざ)にある立岩という景勝地とのこと。ちょっと地中海的な感じで開放感に満ちている。日本海側を裏日本とかいって暗く寂しい湿度の高いイメージで描くことがよくあるが、そんな場所ばかりでも勿論ない。※同監督の『約束』はまさに暗く寂しい日本海沿いを映した秀作だが。
少し修羅雪姫が入ってしまった梶。ちょうど同じころに撮っていたからか。
高倉と勝が画面に映っているとそれでどんどん引っ張っていけるということはやっぱりある。
復讐は終えたが虚しさがばかりが募る高倉が勝の宝探しに協力することになり訪れたさんにんの幸福な日々。宝なんか見つからなくてもこれがずっと続けばいいと梶は呟く。
終盤、間人の砂浜で宝を首尾よく見つけ出し大金が手に入ったらどうするんやと勝に訊かれた高倉が、おれは外国に行ってみたいと答え、親類でもおるんか、いやおらん、誰もおらんのに行くんか、ああ、だから面白いんやないか、けったいなやっちゃ、そうかの、けったいかのと初めて笑顔をみせる高倉。美しい場面。それだけにラスト、ふたりに訪れる結末が引き立つともいえるし、それはナシだろうともいえ、たしかに賛否両論あるのがわかる。