川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

フラジャイル

f:id:guangtailang:20191207180709p:plain7日、本格的な寒さ。止みそうで止まない雨。午後2時過ぎに仕事を終え、帰宅。来週に向けて考えをまとめるため、机上にノートとボールペンを出すが、少しもまとまらない。重ね着してころ柿をかじっているだけで、脑子不工作了ということ。だからペンもついに持たず早々にパソコンを開き、FANZA動画で日活ロマンポルノ 『さすらいの恋人 眩暈』(小沼勝・1978)を観ることにした。

冬の公園。氷の張った噴水。多くの人が言うように、氷の厚さをたしかめる女の手の映像で始まる冒頭は秀逸。結局、都会の氷に躰をあずけられるほどの強度などあるはずもなく、氷は割れ、女はどぼんと沈み込む。そこに男が通りかかり、女を助け、それがきっかけでふたりは同棲に至る。【以下、ネタバレあり。尚、役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

f:id:guangtailang:20191207180800p:plain北見敏之と小川恵は安アパートで暖をとるが早いか即座に交接し、ほどなく恋人関係となる。

f:id:guangtailang:20191207180835p:plainその交接の場面を陰獣よろしく壁に穴を穿ち、覗き見していたのが隣りの部屋に住む高橋明だ。西の言葉を操る彼は妙に羽振りがいいようで、殴り込んできた北見に儲け話を持ちかける。それは要するに白黒ショーみたいなことなのだが、北見と小川は若さのいきおいと金欲しさ(これは北見のみだが)に応じる。金が入ると、ビルの高層階のレストランでどか食いする。「ワインて甘くないのね」と呟く小川がおぼこい。

f:id:guangtailang:20191207180919p:plain中盤まで観てきて、この映画はどこを切ってもロマンポルノといった趣きで、とりわけ音楽が良いと思った。物語のトーンをつくっている。それと観た人が指摘しているが、劇中、中島みゆきの「わかれうた」(1977)が2度流れるのだが、私も2度は要らなかったと思う。

f:id:guangtailang:20191207180957p:plain鎌倉のディレッタントらの前で白黒ショーを演じる。胡桃を掌で鳴らしながら淫猥な要求をしているのは坂本長利だったか。

f:id:guangtailang:20191207181029p:plain小川の郷里は新居浜で、北見が200万の借金をこさえて、かつての仲間たちから追われているのを知ると四国に行こうと誘う。北見は踏ん切りがつかない。この夕暮れの鎌倉の海の場面は、ふたりのフラジャイルな関係の美しさがもっともあらわれていた。

f:id:guangtailang:20191207181105p:plainニコライ堂の見える喫茶店。白黒ショーで稼いだ金(小川の預金通帳から下ろす)で200万を返済する北見。この女、飛鳥裕子が追う側のリーダーである。目力のあるクールなフェイスで、この人はそうゆう役でいいと思うが、配下の3人の男らが浪人生に毛が生えたようなやつばかりでまるで迫力がない。小川を襲う場面もいまいちであった。それこそ高橋明の凄みを見習うべきだ。

f:id:guangtailang:20191207181136p:plain引っ越し先のアパートもかつての仲間たちに乗り込まれ、小川ひとりでいるところを犯されたと知って嗚咽した北見は、ついに四国に行くことを決心する。しかし渋谷で切符を買う際、またぞろ彼らに捕縛されてしまう。小川は雑踏の中に飛鳥の姿をみとめ、悪い予感がして北見を探しに戻るがすでにその姿はない。白黒ショーで幾度となく肉体を重ね合わせはしたが、ふたりの関係はどこまでもフラジャイルで、都会の噴水に張る氷のように、行けると思ったらどぼんと沈み込むのだった。