日活ロマンポルノ、『おんなの細道 濡れた海峡』(1980・監督 武田一成)をDVDで。
【以下、ネタバレあり。役名で呼ばず、俳優の名で呼んでいます】
冒頭、ストリッパーの山口美也子と朴訥とした三上寛が列車で盛岡に向かっている。山口の夫でストリップ小屋の経営者、田舎ヤクザでもある草薙幸二郎に山口を貰う許しを乞いに行くためだ。40年前の盛岡の街の風景が映る。三上が凍った路面に滑って転倒するのだが、左のつららと相俟ってハルピンで派手にすっ転んだ個人的な記憶が思い起こされた。長靴買わなきゃねえと山口が云う。
原作は田中小実昌。読んだことはないが、三上の役に相当程度原作者が反映されていると感じた。のんべんだらりとして、ストリッパーと関係を持ったり、行きずりの女とすぐ交接したりするのだが、独りになった時、父さん、困ったことになったよ…おれはどうすればいいのかなあ…ほんと大変だよ…ポロポロだよ…などと情けなく呟く。このポロポロというのはパウロパウロということらしく、父親が牧師だったのだという。
草薙と配下のチンピラに威され、三陸方面に逃げた三上。それにしたところでどこか牧歌的な様相なのだが、平成の最後を生きる者としてはここで否応なく8年前にこの一帯を襲ったカタストロフィを思い出さずにはいられない。昭和の平穏な風景が映るから余計にそう思うのだ。
居酒屋の奥で交接していた石橋蓮司と桐谷夏子。朝、三上がバスの待合所に行くと桐谷がいる。彼女の喋り口調がけだるくて独特である。三上が宮古ってどんなところと訊くと、港があって、飲み屋があって、魚が獲れて、と興味なさそうに云う。
バス停でないところでバスを停めて、陸中海岸の断崖絶壁の突端で野糞をする三上。つづいて桐谷も傍らに来て、女が先に云えないもんね、と一緒に野糞をする。雪がちらついている。こういうやり方で男と女、人と人との交情を描くのは僕は好きなんです。下ネタじゃねえか、と云われればそうなのですが、下(シモ)の事柄は人間存在にとって不可欠な要素ですから。このあと三上と石橋が一升瓶を飲み交わしながら尿瓶に尿をしあうという場面も描かれる。
ロケした場所も良かったのだろうが、昭和の情緒というものが横溢して、色情をそそるというよりもほのぼのした映画である。平成の倍の長さを持つ昭和時代も無論いろいろなことがあったろうが、昨今、社会や人間関係がギスギスして、ちょっとしたことですぐ他人を指弾したり、重箱の隅をつついて鬼の首でも取ったように騒ぎ立てる風潮は、先日の西川口から帰る電車の中でSと芳しくないなあと云い合ったことでもあった。そこに生まれる情緒とは好戦的でこせこせしたものでしかないだろう。