川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

無頼をかます

f:id:guangtailang:20210609221153p:plain【ネタバレあり。役名で呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

原子力戦争 Lost Love』(1978・黒木和雄監督)をDVDで。現在から見れば、誰もがああ、10年前にあの事故の起こった、あの原発かと思う。映画の内容は原発の利権の闇に主演の原田芳雄が巻き込まれ、最後は塩ワカメのような髪を海水に浸して野垂れ死ぬものとなっている。ただ、映像がシュール過ぎて、原田芳雄が無頼をかまし過ぎて、山口小夜子の佇まいが場違い過ぎて、原発云々の沈思黙考を促すような映画ではない。だいたいDVDのサブタイトルの〈Lost Love〉も意味わかんないよ。真夏の汗ばんだ素肌にコートを纏い、福島第一原発の正面ゲートから闖入する原田とカメラ班。ここはドキュメンタリータッチ。当然止められるのだが、警備員の訛りがやけに牧歌的に響く。3.11ののちを生きるわれわれはそう感じる。

f:id:guangtailang:20210609221238p:plain地元の新聞記者佐藤慶と原田。ふたりとも鬼籍に入っているが、いい役者だなあと思いながら眺める。原田の役は、地元警察が評するに、東京から来た〈スケコマシ専門のヤクザ者〉。最近、原発で異変があったようだが、その探索にこの男をうまく利用できないかと考える佐藤。

f:id:guangtailang:20210609221359p:plain原田と山口のシュールな空間でのシュールな出会い。山口は数日前、海岸に上がった男女の心中遺体のうち、原発技師だった男の妻である。このあと原田と山口のふたりが映るとずっとシュールで、原発問題を考える方向には行かせない。ともすれば類人猿にも見えるオスの匂いをぷんぷんさせた原田の貌と躰、この港町に不釣り合いなこの世のものならぬ妖艶な山口の貌と躰。

f:id:guangtailang:20210609221445p:plain映り込み。外に停めたトラックの荷台幌から顔を覗かせ、レストラン内の山口に向かって手招きする原田。ところで、1970年代後半(昭和50年代初頭)のいわきの港町の風景が味わい深く、資料的価値がある。

f:id:guangtailang:20210609221537p:plainその後、海岸に繰り出す。原田はこの時37くらいで、今でいう細マッチョというよりはむちっとしつつ筋肉質な躰をしている。無頼をかましているのだから、酒や不摂生などで多少脂肪がつきということで妙にリアリティがある。

f:id:guangtailang:20210609221611p:plain塩ワカメが海水に浸る。佐藤と岡田英次がすたすた歩きながらするやりとりは、現在にも妥当するいくらか聞かせるものだった。特に腕力に自信があるわけでもなく、わりと容易く町の若い衆にぼこぼこにされるあたり妙にリアリティがある。