川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

プールサイド

f:id:guangtailang:20220719200617j:image梅雨がぶり返したような天気に毎日予報とにらめっこしていたが、必ずしも下田に行こうというわけじゃなかった。山や湖に行こうとも考えていた。それが仕事で細々しいことをつづけているうち、海に行きたい、涙ぐましいブルーでしこたま目を洗いたいという気持ちが抑えようもなくなった18日、突端の宿の予約をとった。幸いその日は晴れ予報だったのだ。19日は仕事を休ませてもらう。

f:id:guangtailang:20220719200710j:image道すがら、熱川のバナナワニ園に寄る。斜面につくられたこの施設と群馬県太田のジャパンスネークセンターは個人的に応援していて、グッズなどもオンラインショップで購入しているが、ワニもヘビも爬虫類というだけで多くの人の受けはよくない。爬虫類はグロテスクで危険だから親しみがわかないという先入見を一旦はずして、よくよく見てみるとファニーなことに気づきはしないか。よく言われることだが、ワニもヘビも鳴かないから集合しても少しも騒がしくないし、においもない。ワニの鱗に触れたことはないが、ヘビの鱗はひんやりしてすべっこく官能的だ。

f:id:guangtailang:20220719200610j:image宵闇が迫る。Hさんと人気のなくなったプールサイドを歩く。さっきまで入田浜でフリスビーをして遊んでいた。その円盤は紫外線を受けると透明から紫に変わるのだが、手に持った瞬間から濃い紫になっていた。靴と靴下を脱ぎ、ズボンをたくし上げ、波打ち際を走り回る。こういう時脳裡に流れるのは真心ブラザーズの「サマーヌード」だ。空を舞う円盤を追いかけているあいだ、年齢は忘れている。

f:id:guangtailang:20220719200625j:imageキタノブルーの断崖。気持ちよく髪をなぶられながら、ここにないもののほとんどが都会にはある、しかしこの海からの風は都会にないのだ、などとセンチメントが湧き上がってくる。明日はどれを見ても雨の予報だ。

f:id:guangtailang:20220719200613j:image翌朝。ベランダに出て、多々良浜の方を見る。降るには降っているが、たいした雨じゃない。ただ、風が強くて湿っている。この後、Hさんは大浴場に行き、僕は部屋のシャワーを浴びて、朝飯を食い、うんこをして、海沿いを北上しながら帰路に就くのだが、その途中いわゆるゲリラ豪雨のような雨に何度か遭った。クルマのワイパーをマックスにしてさえ前方が見えない、滝に突っ込んだようなやつだ。

f:id:guangtailang:20220719200621j:image熱海まで来るとほとんど止んでいたので、昼飯を食おうと起雲閣をざっと見た後駅前までぶらぶらするが、入りたいと思う店がない。それか店自体が閉まっている。空気は肌にまとわりつくように生暖かい。そのうちHさんが「リァーハイやぱりダメだな」と呟く。これは以前にこの地で降りた時の記憶が関係している。その時もカフェを探して、なぜだか入りたい店が見つからず右往左往したあげく、結局諦めて小田原まで行き、だるま料理店で昼飯を食ったのだ。マップで探せば見つかるというのはその通りなのだが、見ながら歩くうちにもういいやと意気阻喪させる変な氣がこの街にはある。

Mがよくどこそこの街は〈地盤が合わない〉という言い方をする。多分にスピリチュアルな意味が込められているようで、地霊と言ってもよさそうなのだが、僕らの場合、リャーハイは地盤が合わないということだろう。無論ばっちり合う人もたくさんいるだろうから、僕らに限ってということだ。そんなことを考えているうち、またも強い雨に見舞われ、和菓子屋の前のアーケードで雨宿りした。

f:id:guangtailang:20220719200631p:image小田原厚木道路で人身事故があり渋滞。

f:id:guangtailang:20220720094627j:imageフィルソンおじさん。結局今回も小田原まで来てだるま料理店(驚異の明治26〔1893〕年創業)で昼飯。相変わらずどっしりとして清潔な店内。食後、Hさんが化粧室に行くが、すぐに出てきて服務員のおばさんに何か訊いている。戻ってきたあとどうしたのと言ったら、あなたも行けばわかるとにやにやしているから僕も行った。左右のドアにそれぞれ櫛と兜が描かれている。なるほど。あれは日本人なら誰でもわかると思う。うん、子どもには少しむつかしいかもしれないと言うと、彼女は初めて見たと言う。

f:id:guangtailang:20220720090317j:image開国下田みなとで買った紅甘夏。爬虫類の鱗のように堅い皮をしているが、どこか一部を剝けばそこから簡単だ。18日に一袋食べて、やや苦みはあるものの水分が豊富で、食べているうち癖になったので、19日にも寄って三袋買った。