川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

よく見るとファニーですよ。

f:id:guangtailang:20200905084301j:image先月、読んだ小説。『アウア・エイジ』、おもしろかった。【以下、ややネタバレあり】

疲れた四十男が主人公で、彼がかつて一緒に塔を探した女、その女が殺されてから長い時間が経ち、ひょんなことから彼は単独で幻の塔探しを再開する道行きとなる。現在の男が回想するミスミというその女には、痛ましいような変な魅力がある。長身痩軀で西洋人のような高い鼻を有しており、言動がガサツで謎めいている。ミスミの哀しい実在感が『人間の絆』のミルドレッドばりで、個人的に惹かれるものがあった。ナルトとサンブ。『砂の器』的なこの謎については、出てきた瞬間にわかってしまったのだけれど、写真の塔に行き着くための手がかりのひとつに過ぎない。松山にある伊丹十三記念館でなんとはなしに見た『タンポポ』のワンシーンから、遠い記憶の糸を手繰り寄せ核心に迫っていくの、スリリングだった。 

『げいさい』は浪人生の主人公が友人の進学した多摩美の芸祭を訪れて、その一夜の中でいろいろな人間と絡みながら、いろいろなことを回想し、それが日本の美大受験システムの批判にもなっているのだが、別段浮き上がるような声高なものでなく、主人公の実感として無理なく物語に溶け込んでいたと思う。実はこの芸祭というものの現場に私もいたことがあり、というか母校なので主催者側で模擬店を開いたり、懐中電灯片手に夜の警備をやったり、その後深夜に部室で酔い潰れたりしたものだ。それで、『げいさい』より時代は下るが、情景がありありと浮かぶ場面がいくつもあった。ただ、この小説に描かれているように、美大生は美術予備校時代のコミュニティを濃厚に保持していることが多く、私は論文書いて入ったクチで美術予備校には通わなかったので、その手のコミュニティには全然入っていけなかった。その後、学部で出会ったふたりとは20年以上経った今でもたまに会うが。

f:id:guangtailang:20200905150734j:image伊豆熱川バナナワニ園のTシャツをオンラインショップにて購入。これとヨウスコウアリゲーターのマグカップも。ワニだけを一途に描きつづけているという雨宮ひかる氏のデザイン。街中で着ていたら、爬虫類大好き系壮年と思われること必定。予想通り、怖いと言ってHさんの受けは良くなかった。よく見るとファニーですよ。