川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ひずむような

f:id:guangtailang:20211130093724j:image或る土曜日。午後4時15分。池袋サンシャイン60の展望台で。ちょうど日の入りが迫っていた。地平線がひずむような日没で、その場に立ち尽くし、しばらく見とれた。途中から涙が滲むのが自分でわかった。

周囲を見回すと、ここは随分と空いている。ほんとうに長いこと来ていなかったが、サンシャインの展望台とはこのようだったか。子ども向けのファンシーな内装が目立ち、実際若い家族連れが多い。幼児がピョンピョン跳ねている。こんな夕陽が見られるのなら、内装どうこうは関係ない。

f:id:guangtailang:20211130093742j:image或る日曜日。午後4時半。新宿裏通りのビル奥喫茶店で。このあとMと羊の肉を食べるというのに、歩き回ったおかけで腹が減り、ついミックスサンドを注文してしまう。席はほぼ埋まっており、僕が入店する時も少しだけ待った。ブラックをすすりながらムシャムシャしていると、左のテーブルの男女の会話が聞こえてくる。男は薄毛の丸眼鏡でTシャツにジャケットを羽織り、喋りは軽妙。40後半か。女は黒髪のショートカット、首元のちょっと変形な黒いニットを着ている。30後半か僕と同じくらいに見えるが、横顔が美しい。男の話に相槌を打ちつつ、言葉を返している。ふたりの、社会通念を踏まえながらも、人間は時にそれをはみ出してしまうものでしょう、ということを巧みな話術と豊富な語彙で言い合うところに、つい耳が向いてしまう。どういう関係かと推測すれば、作家と編集者か。

f:id:guangtailang:20211130093745j:imageJ夫妻の結婚パーティの司会を頼まれ、その打合せのあと、この羊の肉の店に行った。もう何年も前で料理の記憶は曖昧だが、ジョージアのワインを飲んだのは覚えている。まだグルジアと呼んでいた。それは旧店舗の話だ。現在この店は新宿のでかいオフィスビルの地下に移転している。僕はこういう立地をあまり好まないのだが、レンガの意匠を見たMは気に入ったようだ。カクテルの種類が少なく彼女はノンアルコール、僕はビールを飲んだ。彼女の躰の具合、近況をいろいろ話したが、その中でMが発した言葉に傷を受けた。ナイフが鋭く一閃したというより、牛刀をドスンと振り下ろされた感じ。彼女のこわいところが出た、と酔いながらも感じた。翳りゆく部屋の中で思いを巡らせ、至ったひとつの感情なのかもしれない。それでも、45のおっさんの打たれ強い神経で持ち堪え、帰り際、店を出たところでふたりして変顔で写真を撮った。