川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

氷塊

f:id:guangtailang:20211101084419j:image小雨。池袋西口の表記がややこしくなって、Mからそれで何口でしったっけ?とラインが来る。わしもようわからんのだけれども、西口北ですかのお。フクロウのところに立ち、正面ばかり見ていたら後ろからポンと肩を叩かれた。髪の色を黒に戻し、ダーマペンの効果だろう、マスクで隠れていない部分がスベスベした彼女の目元が笑っていた。

f:id:guangtailang:20211101084431j:image日付はいちにち巻き戻る。恒例の鼎談はSの体調不良による欠席で、〈缺けたる鼎談〉となった。主催者のJはいろいろと準備をしてくれ、職場から直行したわたしが目白駅前で待っているとリュックサックにウエストポーチ、両手にビニル袋という恰好で飄飄とあらわれた。池袋方面に向かって線路脇の道を進み、築40年以上のビルの一室にあるレンタルスペースに入室する。窓を開けていると案の定、電車の走行音がうるさいので閉めた。ユニットバスが昭和のソープランドみたいな意匠で、趣きがあるので撮影する。そこから動画撮影のセッティングをし、酒を飲みながらJの買ってきてくれた町寿司をつまみ、7時間の長丁場だったが、終盤の2時間は30分に感じた。これは毎度のことだとふたりで言い合った。帽子とネクタイを何度も交換した。グラスに何度も氷塊を足した。彼はそれを冰块儿(びんくぁーる)と中文で発話し、わたしにハルビンを思い出させようとする。だから、最初の婚姻に至った氷の城市=ハルビンでのエピソードをつい長々話してしまう。吭哧瘪肚(かんちびえどぅ)とは何か。〈町寿司探訪〉とJは言う。そこにはぶらり町歩きをし、目についた寿司屋にふらり入店する響きやイメージがあるが、彼はめちゃくちゃ入念に下調べをし、あまつさえ電話で内容の確認までして、一直線にその寿司屋を目指しているというのが真相だ。探訪という言葉は単純に好きだから使っているのだ。目白のお寿司、おいしかったです。

f:id:guangtailang:20211101084442j:imageJは望遠レンズのカメラをぶら下げており、帰り際、それで撮影しようとするがなかなかうまくいかない。落書きされた高架下の壁沿いで撮ったものも雰囲気はいいが、ぶれてしまう。観客席からグラウンドのディエゴ・ピトゥカ選手を撮る時の仕様なのだろう。Jとわたしがプラットホームに向かっていると、上野方面行きがすでに停まっていた。行きなはれと彼に言われ、わたしは駆けた。車内で秋の夜長の缺けたる鼎談を反芻したが、酔った頭ではふわふわして、ただただ楽しかったという感情が塊のように在るだけだ。

f:id:guangtailang:20211101084459p:image今日も鍋包頭(ぐおばおろう)を打包(だーばお 持ち帰り)する女。池袋ロマンスの濡れた路面を闊歩す。うちらが池袋に来ると雨の時多いよねと言われ、たしかにそんなことが多いと頷く。わたしは年齢を重ねるたびに池袋に来る頻度が高くなっている。高校生まではまったくといっていいほど来たことがない。大学時代、先日久々に会ったKとの待ち合せ場所が池袋ということが多く、それからちょくちょく来るようになった。今はなきリブロ本店の中にぽえむぱろうるという詩集を集めた一角があり、そこや思想・哲学のコーナーをふたりでぶらついていた記憶があるが、後者に関してはわたしに眼光紙背に徹する読書は向いておらず、今や書棚にその手の書物はほとんどない。あっても飾ってあるだけだ。