川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

最後の晩飯

f:id:guangtailang:20210723175939j:imageここふつか夜寝つけなくて明け方にウトウトしていると、連続でおんなじ夢をみた。これは僕としてはきわめて異例だ。しかも目が覚めてもわりかし鮮明におぼえている。毎朝6時に検温と血圧をはかるのに看護師が来るのだが、その時に仰臥したまま内容を反芻している。だいたい僕はなにか夢をみた感触は残っていても、内容はほとんど思い出せないことが多いのに。

なにやら海沿いらしい町で、僕はいつもおんなじ路地を歩いてるんだ。軽トラがやっと通れるくらいの。時刻は午下りで、季節はよくわからないが温暖な気候だ。海からの湿った風、これは強く感じている。なにかいちにちの中の空白時間のように人気も物音もない。僕の年齢は明らかに若い感じで、大学生くらいか。いちにちめはひとりで、ふつかめは同年代の女性─といって、つきあっているわけじゃなく、まあちょっと仲がいいという感じ─と一緒というのが大きく違う。いちにちめは自分の歩く時に靴底が砂を噛む音を聴きながら無言で歩いている。なにか目的があるわけじゃなく、たとえば実家のある町に帰省したが無聊をかこってぶらぶら散歩している感じ。ここにいるのがなにかしら場違いという感覚も持っている。ふつかめは女性と並んで歩いているが、別に会話があるわけじゃない。僕の歩行はやや重たげで、女性の方がとんとんと軽やかにウォークしている。すると、後ろからバイクの接近する音がして、いたずらっぽくクラクションが鳴らされる。ふたりで脇によけて振り向くと、髪の黒々したサングランスのあんちゃん風の男が目の前で止まって、跨ったままふたりをにやにや見て、「後輩がさー、そうやって伝統守ってくれてると、こっちも安心すんだよ」と謎のような言葉を吐く。その時、急に女性がけたたましいと言っていいくらいの音量で笑う。僕は吃驚して、と同時にやっぱり自分は場違いなんだよみたいなことを思う。こんな男は知らない。あんちゃんは愉快そうに脣を曲げたまま行ってしまう。そのあと、なぜか女性との会話がはずみだし、海の方まで歩こうという話になるが、その内容は覚えていない。ただ、木造家屋が並ぶ路地に斜めに立つ黄色いポールを鮮明に覚えている。いちにちめにもあった。

今夜も寝つけなければ佐藤慶の朗読で谷崎潤一郎先生の「刺青」でも聴くかな。f:id:guangtailang:20210723181141j:image