川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

独特の映画

f:id:guangtailang:20180208224032j:imagef:id:guangtailang:20180208224042j:imagef:id:guangtailang:20180208224050j:imagef:id:guangtailang:20180208224105j:imageアピチャッポン・ウィーラセタクンブンミおじさんの森』(2010/タイ/114分)を北千住の東京芸術センター2階、シネマ ブルースタジオで。以前、この建物から程近いワンルームマンションに住んでいたことがあり、ブルースタジオの存在も当時から知っていたのだが、入場したのは実は今回が初めて。音響が思っていた以上に良かったけれども、シネコンのシートに慣れてしまうと椅子がちと貧相なのは否めない。まあ、1,000円ポッキリですし、贅沢は言うまい。それにつけても「世界の名画たち 特集」のプログラムを見る限り、非常に骨太なラインナップで、近所にありながらなんで今まで足を運ばなかったのだろうと思った。次回はダルデンヌ兄弟の初期作『ロゼッタ』で、その次がジャ・ジャンクー『プラットホーム』。後者は観に行ってしまうな、きっと。ロビーのチラシにはワン・ビンの『苦い銭』が置かれてあった。

さて、『ブンミおじさんの森』はタイ東北部の密林地帯が主な舞台で、鳥や虫の鳴き声が充満した濃密な緑の繁茂する空間では生者も死者もそのあわいを明確にしないまま平然と食卓をともにしてしまう。冒頭、仄暗い水辺で憩う水牛が縄をほどいて遁走する場面からゆったりとした独特の雰囲気で、密林に分け入ってから赤い目だけを光らせた黒い怪物(猿の化身)がのそっと現れた時には、これはもうハリウッド映画とかなんとか映画とは違う独特の文法でつくられた映画なのだと確信する。

なんていうか、タイの人の信仰とかサブライムな感情が独特に描かれているのかも知れないが、それ以上にアジア的なおおらかさを感じた。死者はとても親しげだし、ブンミおじさんも己の死期を悟りながら「これはおれのカルマだ」とあっさり言って、森に入ってゆく。そして、行き着いた先の洞窟で未来都市の夢をみた話をすると生から死へひょいと移行してしまう。案外こんなものかも知れないと私も思う。正直言うと、仕事の疲れもあって、私は何度か睡魔に襲われた。が、この映画はそうやって朦朧と明晰のあいだで観るのが良いかも知れない。はっとするような美しい場面があって、私は目を醒ます。最終盤のジェンとトンが分身みたいになっているところはちょっと意味わかんないけど、なんでもわかろうとする必要もないわけで。

とにかく今まで観たどんな映画にも似ていない映画だった。