川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

THE VANISHING

f:id:guangtailang:20201210162046j:image1ヶ月以上かけて失踪の学問的な書物を読了する。示唆に富み、おもしろかったが、いろんな概念を駆使しながら論証を積み重ねていく形式や、迂回にもみえる章立てもあり、ややまどろっこしさを感じた。晦渋にしているつもりはないと思うが、文章としてもうちょっとスッキリ書けたのじゃないか。アルコールの入った頭だと同じ箇所を何度か読み直さないといけない。まあ、それは壮年の衰えとしてこっちの問題だし、学術書とはこのようなものでしょう。失踪という主題の性質上、データも多くはなかったが、失踪者本人へのインタビューは特に前のめりで読んだ。ともあれ、失踪を社会学したその意気や良し!  誰やねんおれ。

f:id:guangtailang:20201210190202j:imagef:id:guangtailang:20201207183627p:plain『失踪』(1993・ジョルジュ・シュルイツァー監督)をDVDで。これは同監督の1988年のオランダ映画をハリウッド・リメイクしたものらしい。舞台はアメリカのシアトル。この90年代初頭のシアトルの街や郊外の景色、山並みがなんとも素晴らしく見惚れた。ストーリー自体はわりかしシンプルというか、冒頭から犯人が示唆されているし、手に汗握るというような緊張感もたいしてないのだが、シアトルの景色が素晴らしい(重要なことなので2回言います)。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

f:id:guangtailang:20201207183705p:plainキーファー・サザーランドと恋人のサンドラ・ブロックがセント・へレンズ山(1980年に大噴火し、山体崩壊した)へ遊びに行き、途中寄ったSAで彼女が忽然と姿を消す。彼は必死に探し、警察にも連絡するがまじめに取り合ってもらえない。

そこからいきなり3年くらい時間が飛び、サンドラを探しつづけてやつれたキーファーがダイナーに入ってきて、そこでウェイトレスをやっているナンシー・トラヴィスに心配されたりしているうち懇ろになって同棲するに至る。この辺り、個人的には恋人に失踪されたキーファー独りの苦悩をもっと丁寧に描いてほしいと思った。失踪時の様子を思い返し、頭を掻き毟りたい夜が何度もあったはずである。彼の日常はどのように変化したのか。サンドラがいなくなって、すぐにナンシーみたいになっている。

f:id:guangtailang:20201207183741p:plainボルボを運転するのは奇っ怪な男ジェフ・ブリッジス。いい味出してます。ハイスクールで化学の教師をやっており、体格は立派だが全然暴力的じゃないし、むしろぬぼーっとして紳士的にも見えるから薄気味悪い。きれいな妻と娘がいる。挑発するようにキーファーの前にあらわれ、激高した彼にボコボコにされる。血を流しながら、わたしを殺したら恋人の真相はわからないがいいのか。などと言う。

f:id:guangtailang:20201207183904p:plain得体の知れないジェフの誘いに乗り、例のSAまで来た。天気は急変し、篠突く雨の中、稲光が走る。ジェフの巧みな言葉の誘導で、キーファーは手渡された運命のコーヒーを飲み干す。

f:id:guangtailang:20201207183948p:plainコーヒーには睡眠薬が入っており、ジェフの策略にはまったキーファーは何処へ。その頃、彼の現在の恋人ナンシーが自らの閃きをたのみにキーファーを捜索する。この映画はナンシー・トラヴィスの映画だと言っても過言じゃない。ジェフが有する湖畔のロッヂにたどり着いた彼女。髪が顔が痩身が泥だらけになりながらも、奇っ怪なジェフ・ブリッジスと堂々対峙する。そこら辺がまたB級ぽさもありつつ、ナンシーを目で追ってしまう。ラスト、運ばれてきたカップを見たふたりが声をそろえてコーヒーを遠慮するところは粋。