川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

貌が見たくて

f:id:guangtailang:20220606120327j:image禁煙席が空いているか訊いたら満席。地下に降りて右側の狭苦しいスペースがそれで、時代の流れに逆行して左側の喫煙席の方がはるかに広い。この店にはほんとうに久しぶりに来た。大学時代やそのあと数年は友人Kとしょっちゅう来て、当時ヘビースモーカーだった彼と当然のように喫煙席の方に座った。Mが神保町と神谷町を間違えて、20分ほど遅れてあらわれる。そのあいだに空いた禁煙席で、僕は日に10食限定のコーヒーゼリーを食った。苦味深みがあったよ。音楽はかかっていない。ジーーと絶えずなにか機械音がしており、妙に耳につく。それを彼女は不思議がった。何十年分もの紫煙を吸い込んだ、カフェなどと呼ぶのは似合わない古い喫茶店だ。店員が壁のように見えていた狭い木目の扉をパカッと開けて中に消えていった。「休憩室?」とMがただでさえ丸い目をもっと丸くして言う。「なんか忍者屋敷みたいだ」と応じる。こういう時の好奇心を露わにした子どものような彼女の顔が好きだ。

なんか急にロイ・シャイダーの貌が無性に見たくなり、家にあるDVDをひっくり返して、『フレンチ・コネクション』(1971・104分・ウィリアム・フリードキン監督)を観る。まあこれはポパイことジーン・ハックマンが主役で、シャイダー氏はその寡黙な相棒という立場なのだが、いっこ印象深く覚えているのがハックマン氏がクルマで自転車の女の尻を追いかけているシーンがあって、その後にシャ氏がハ氏の部屋を訪れる。その時の廊下の狭さ。で、ノックしたら勝手に入れとハ氏が言い、シャ氏がその通りにするとベッドに手錠で括りつけられたハ氏が仰臥しており、素っ裸の女と鉢合わせて、女はびっくりして奥に引っ込む。その時の部屋の爽やかな明るさ。なんかレモンイエローかクリーム色みたいなイメージがあったが、今回観て当たらずとも遠からずだった。マルセイユでは陽光の明るさがあるが、基本ニューヨークの寒々しく硬質なトーンで進むこの映画の中でちょっと珍しい。

つづけて『ジャッカー』(1989・86分・エリック・レッド監督)。これはテキサス州が舞台で、観ながらこの地の男性的広大さを知る。タンクローリーかなんかトレーラーが連なっている夜のハイウェイをずっと走っている映画だ。シャ氏演じるコーエンは沈着冷静。鬼澁で見惚れる。寄る年波には勝てず補聴器をつけた殺し屋というのもいい。もうひとりの殺し屋アダム・ボールドウィン演じるテイトは大柄でネジの1、2個飛んだいかにも粗暴なヤンキーだ。これに誘拐された少年のさんにんの登場人物でずっと話が進んでいく。コーエンが居眠りする、コーエンがブッ放す。

フレンチ・コネクション』の高架を走る電車をハ氏が強引に追うカーアクションより、こちらでは主役のシャ氏『重犯罪特捜班/ザ・セブン・アップス』(1973・103分・フィリップ・ダントーニ監督)のカーチェイスが抜群。坂道でバウンドするの好きだし、チェイスの結末が意外なかたちで、こうくるかと思った。あと、この映画はやたら洗車するんだ。

友人Jが強力オススメの『トップガン マーヴェリック』(2022・131分・ジョセフ・コシンスキー監督)もどこかのタイミングで観に行きたいし、コーヒーゼリーの日に観た『波光きらめく果て』(1986・128分・藤田敏八監督)についてもちょっと書きたい。『JAWS/ジョーズ』(1975・124分・スティーブン・スピルバーグ監督)も観直したい。 

JAWS 2』(1978・116分・ヤノット・シュワルツ監督)より。少年少女の漂流とケーブルジャンクション。