川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

碧色の16歳

f:id:guangtailang:20200816221835j:image下田の多々戸浜を臨む。今年の夏、海開きが中止になった海水浴場、茨城、千葉、神奈川はかなりの数に上るのに対し、静岡はわずかである。下田一帯の海水浴場には人が犇いていた。去年の7月に来た時も犇いていたし毎夏犇いているのだろうが、今年は関東圏からより一層人が流れてきている気がする。伊豆で見かけるナンバープレートの関東率は異常。道すがら、〝都道府県を跨ぐ移動は慎重に〟という電光掲示板を何度か目にした。多々戸浜や入田浜はわりかしこじんまりしてプライベートビーチの趣きもあるので密度的にはそこまでじゃないが、それでも移動に対する批判は当然あるだろう。南伊豆まで跨ぎ倒しているわけだから。

f:id:guangtailang:20200816221905j:imageホテルにチェックインする前に伊豆最南端の石廊崎へ足を延ばす。ところが岬へ向かう車中、Hさんがこんなに暑いのに灯台までの道を上るなんてと顔をしかめる。僕は左側でちらちらしている砂浜のビーチパラソル群に目を転じ、わかったじゃあ向こうに着いてクルマから降りた瞬間の空気で決めようと言った。というのも先刻道の駅で降車したのだが、暑いには違いないが熱風が躰に纏わりつくような感じはなく、存外爽やかな潮風が感じられたから。海からの風がある下田は東京市街の暑さとは違う。

f:id:guangtailang:20200816221921j:image駐車場の入口でおばばが言う。ここに駐めたら500円かかる、そして灯台まで徒歩で20分乃至30分かかる。遊覧船はここの奥から出ている。上になんたら駐車場ができたから、そこからなら10分で着くよ。Hさんは半分くらい理解したのだと思う、さんじゅぷんっ!と叫ぶ。ぼくはおばばに商売っ気がないのがおもしろく、遊覧船はどの辺りに行くんですか? と訊くと、ヒリゾ浜だという。遊覧船に乗れば陽光を避けられると思うけど、乗るかい?  それならいいわよ。クルマを駐めて降りた瞬間、熱風が躰を包み込み、眩暈のするような強烈な陽光が降り注いだ。乗船客は数人しかおらず、ぼくたちは船尾に陣取った。ヒリゾ浜は海水浴客で犇いており、シュノーケリングをぷかぷかやっている人も多い。真っ黒に日焼けした若人が手を振るから、こちらも船の中から振り返した。

f:id:guangtailang:20200816222114j:image多々戸浜で海水浴。砂浜に打ち捨てられた海藻を目印に荷物を置く。碧色の波と戯れていると時間と自分の年齢を忘れる。見た目は海坊主のようなおっさんだとしても、心は16の少年だ。Hさんに手招きされてやっと海から上がり、何気なく足元を見ると、右足真ん中の指の皮がべろりとめくれ、出血していた。

f:id:guangtailang:20200816222326j:image午後8時15分、遅めの晩飯。Hさんに携帯の充電器を持って来るよう頼まれひとり部屋に戻ると、外で歓声が聞こえる。窓を開ければ、海からの風が気持ちよい。多々戸浜で家族が花火をやっているのをしばらくバルコニーから眺めていた。

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